第五話

天希たちがめのめ町を出てから3日がたった。最近、所持金が少なくなってきている。食料は可朗のデラストのおかげでいつでも調達できるのだが、宿無しはつらい。
「野宿という訳にもいかないなあ。デラスターってやつはどこにでもいるんだし」
「戦いに飢えているやつだったら、俺たちのすぐ後ろにもいるぜ」
「え?」
可朗は後ろを振り向いたが、今二人のいるこの『列潮(れしお)』という町には、外に出ているほとんど人がいない。可朗の後ろにも、そのような人間はいないように見えた。
「さっきからずっと俺たちの後をつけてきたようだが、気配と殺気が強すぎて隠れてる意味がないぜ」
突然、可朗の影から黒い物がとびだしてきた。人の形だが、可朗より背が低かった。
「何故バレた!?」
よく見ると、それは普通の(?)人間だった。デラストの力で、影に姿を消すことができるらしい。
「でなおしてきなさああああいいいい!」
「ちくしょおおおおおおおおおおおお!」
そいつは、影でない影になって、どこかへ逃げていった。

「くそう、あんなに簡単に気づかれるなんて・・・・・・・」
その時の彼は普通に歩いているように見えたが、夕焼けに映し出されるはずの影がなかった。
「年齢は大差ないと思うんだけどなあ・・・・・・」
「そうですか・・・ならばこの中年男がお力になって差し上げましょう」
突然後ろに変な男が現れ、話しかけてきた。
「陰山比影さんですね?わたくし、薬師寺悪堂という者です」
「何?」
「これは失礼しました。何しろあなたがそのバッジをごく普通につけているものですからつい・・・・・・・・」
悪堂がさしたのは、支配者アビスの手下だということを示し、会員証のような役割をする、『AVIS』と書かれたバッジだった。
「安心してください。私は仲間ですよ。ほら、私のこのバッジをごらんなさい」
「で、俺にいったい何の用だ?」
「ヴェノム・パワーというのをご存知ですか?」
「ああ、アビス様が戦うときによく発動するやつか」
「実は、私どもの率いる開発部で、そのパワーを誰でも使えるようにしよう、という計画を実行しているのですよ」
「で?」
「ヴェノム・パワーは魔人族の、それもごく一部しか使えないのですが、これを蓄える臓器を粉にして、液体に混ぜてドリンクにしたのです」
怪しいその薬剤師は、一本のビンを取り出し、説明を続けた。
「これがそのドリンクです。これを使って、峠口天希たちを倒しなさい。あと、時間帯も考えた方がいいですね・・・・・・」

夜になった。天希と可朗は公園を散歩しながら話していた。
「なあ、可朗・・・・・・」
「なに?」
「俺がめのめ町から出て行く時、みんなの顔が作り笑いに見えたんだよ・・・・」
「?」
「なんだろうな・・・・どっちかっていうと、俺に出て行けっていってるような感じがしたんだ・・・・・多数決した時も、みんなそんな感じで手挙げてたな・・・・・」
「・・・・・まあ、僕は最初っから天希を追いかけていくつもりだったけどね」
「姉から逃れるために!?」
「鋭い!大正解だよ!」

三井家の長女葉子は、あれこれうるさい両親を家から追い出し、弟二人をこき使って、無職の自由な暮らしをしている。だから可朗が嫌になって抜け出すと、雄大の仕事は二倍になる。可朗がうまく抜け出せたのは、兄の方が重く監視されているからである。
「あの可朗が逃げ出したですって?ふ~ん、で、あんたはそれを見逃したわけ?」
「違う!気づいたときにはいなかったんだ!」
「この~、バカ弟が~!」
「ギャアアアアアアアア!!」
可朗がいたとしても、だいたいこんな感じである。葉子の持つ『音』のデラストの前には、あの雄大でも歯が立たないのだ。

「という訳で、今は兄ちゃん一人で労働ご苦労様なのさ」
「弟だけ抜け駆けしておいて偉そうにするなよ!」
「いいじゃん別に」
「やっぱお前、優しさが全然・・・・・・・」
「どうした?」
「しっ!静かに!」
風一つない公園の中で、草が揺れている。明らかに不自然な光景だった。
「可朗、お前か?」
「いや」
「じゃあ、いったい・・・・」
突然二人は誰かに足を引っ張られ、そこに転んだ。今度は何かに押しつぶされるような感じがした。
「誰かいるのか!」
天希は火を灯して、あたりを照らし出した。そこには不自然な影以外、なにもなかった。
「あいつだ」
「え?誰?」
「昼間の・・・・・」
「陰山比影ダ!」
声がした。昼間と少こし違う声のような気がするが、本人の声には違いなかった。
「殺気が前と比べ物にならねえ」
天希の火があたりを照らし出しているにも関わらず、その不自然な影は、二人の視界から消え失せてしまった。
「どこだ!?」
「ココダ!」
再び押しつぶされるような感覚とともに、不気味な笑い声が聞こえた。
「そうか、自分の影だ」
「確かに、電燈があっても、影はできるもんな・・・・」
「天希、加熱された金属みたいに、赤く光ることってできないか?」
「キツい!」
「それしか手はないと・・・・」
「じゃあおまえはどうすんだよ!?」
「跳ぶ!」
天希の体が赤く光り始めた。可朗のほうは、デラストによって増加した運動能力をフル活用し、天希の真上を跳んだ。
「命は保証しないぜ!」
天希は、真上にいる可朗に向かって火の玉を投げた。その火の玉は可朗に当たると、激しく空中で燃え上がった。
「ぐぁあああああああ!」
炎が消え、可朗が下に落ちてきた時、可朗は二人になっていた。片方はまるで厚みのある影のようだった。
「大丈夫か可朗?」
「大丈夫だ」
二人は影の方を見た。何かの瓶が転がっている。
「ヴェノム・パワー?」
「こいつ、ドーピングしてたのか?」
木の陰から声が聞こえた。
「どうやら、失敗だったようですねえ」
「お前か!」
天希と可朗は、そいつを追いかけたが、公園からでたときには、そいつはいなかった。
二人は、自分の影に踏みつぶされるのを恐れて、残金を使い果たしてホテルに泊まることにした。

第四話

天希の家は3階建てで、山の斜面にめり込むようにして建っていた。天希はめのめ町から船以外で他の国や町にいったことがほとんどない。だから、もし友達の家に行くだけで帰ってきても、天希にとっては大冒険の始まりだった。

その山は別に峠口家の領地などではないが、家から2キロくらいまでは、ほとんど自分の庭として使っていた。だから、その辺にとりつけてある遊具を見れば、天希は自分がどこにいるかわかる。ただし、この大冒険を始めるには、それより広い範囲の森に出て、さらに山を越え、見たことのない外の世界に出なければならない。そう考えるだけで、天希はそのうれしさに、めのめ町の方に向かって叫ばずにはいられなくなる。
「ぜっっっっってーかえってくるぞおおおおおおおー!」
そして反対側にも。
「ぜっっっってー倒してやるからなあああああああまってろよおおおーーーーー!」
二つの山彦は、それぞれの方向へ響いていった。

頂上から見てわかるように、山というよりは低くて小さい山脈のようだった。アビスがめのめ町を攻めてこないのは、この山がある為だと言われている。めのめ町と他の町との境目がこの山脈で、海を渡る以外はこの山を越えるしか、めのめ町に侵入する方法がない。
天希は、初めて自分一人でめのめ町を出たことがうれしくてたまらなかった。外の世界に向いた斜面を、転がりながら下っていった。
「ぎゃっ!」
突然何かにぶつかった。木だった。
「あ、そうか、こっちにも森はあって当然だよな・・・・・」
天希は、こっちの森に何があるかわからないので、うれしくて走り出したい感情を抑えて、歩いていくことにした。

天希が森の中間あたりにはいった頃、ある一人の少年が、めのめ町の方角から『外の世界』の森にはいってきた。
「おーい!天希ー!」
三井可朗だった。
「まったく、世話のやけ・・・・・ぶへっ!」
「誰か呼んだ?」
可朗は消えていた。
「??????」
天希は誰に呼ばれたのか、可朗は自分がどうなったのかが疑問だった。可朗はどうやら落とし穴に落ちたようだ。
「誰だよ、こんなところに落とし穴を掘るやつは・・・・・・」
突然、誰かの走る音が二人の耳にはいった。こっちへ向かっている。
やってきたのは、50くらいの大男だった。その男は、天希の方を見ると立ち止まった。
「チッ、もう上がってきやがったか・・・・・まあいい、相手はガキだ」
二人は戦闘準備を始めた。

誰にも気づかれてない可朗は、穴からそーっと顔を出した。誰かが二人、戦っている影があった。
「天希!」
可朗は穴から飛び出てきた。
「可朗!?」
「天希ー・・・・ぶへっ!」
「消えた?」
「ああ、俺様の作った落とし穴だ。そうか、落ちたのはあいつの方だったのか」
そう言うと、その男、長谷大山(ながたに たいざん)は、再び天希の方へ向かっていった。
「くそっ!」
天希は素早い動きで大山の後ろに回り、思いっきり背中を殴った。
「ぎゃあああああ!」
可朗はまた穴から顔を出した。悲鳴を上げて倒れたのは天希のほうだった。
「痛ッてーー!」
「天希!?」
「ふはははははははは!相手のデラストを確認せずに攻撃に出るとは!」
「何!?」
「俺様のデラストは『岩石』のデラストだ!」
「つまり、体を岩のように硬くできるって言うことか」
「そこら編に転がっている石っころにもなれるということかい?」
可朗が冗談を言った。
「今にわかる」
突然、地面が揺れだした。大山が両手を上げると、地面からいくつもの岩石が浮き上がってきた。既に地面から出た物は、大山の周りを浮遊している。
「げげっ!」
「くそう、相手が岩石じゃ俺のデラストが通用しねえ!」
「ふっ、だと思って僕が来てあげたんだよ」
「・・・・役に立たなそうだけどな・・・・・」
大山の岩が飛んできた。天希はジャンプしたり、左右に移動したりしてかわしたが、可朗はせいぜい頭を引っ込めることしかできなかった。
「うわあああ」
一番大きな岩だったが、転がっていって可朗のいる穴を塞いでしまった。
「可朗!」
「次話お前の番だ」
(くっ、相手があれじゃどうすることもできねえ!熱で倒す方法はあるけど、ずっと動かずにいないといけないからな・・・・・・それに、相手は大人だ、もしあいつのデラスト・エナジーが切れたとしても、力では勝てないな・・・)
突然何かが落ちてきた。それは、次の攻撃の準備をしていた大山の頭に直撃した。
「・・・・・・・」
「残念。相手のデラストを確認せずに攻撃に出るとはね」
天希のうしろにある、大きな岩の下から声がした。
「ふっ!」
地面からまた岩石が現れ、その岩の下にある物を押しつぶそうとした。しかし、その岩石がくっついた瞬間、粉々に砕け散った。
「植物ってのはね、一番力が強いんだよ」
「可朗!」
地面の雑草が急激に伸び、大山の体に絡み付いた。
「くそ、放せ!」
「今だ天希!」
天希は大山に向かって火の玉を投げた。
「へっ、そんな物がこの俺様に通用するか?」
大山が言うと、可朗はそれに答えるように言った。
「大人がそんなにバカじゃ、社会には通用しないよ」
大山に絡み付いていた雑草が、いきよいよく燃え始めた。
「ぐぁあああああ!そういうことか!」
「どうしたんだい?通用しないはずなんだろ?」
「助けてくれええええ!」
「・・・・・・もういいだろ」
「え?」
天希は炎を吸収し始めた。

「あびすサマ!あびすサマ!メノメ町ニハモウイナイソウデス!」
「『もう』いない!?どういうことだ!」
「あびすサマヲタオスタメニ旅ニデタソウデス」
「デラスターになったばかりの小僧共ごときが、この俺様を倒せるとでも思っているのか!」
アビスは机を強くたたいた。
「でもラクなんじゃないの?わざわざ向こうからデラストを渡しにくるってのは」
「まあ、その二つは探す手間が省けるってもんだ」
「でも、倒せるかどうかはわからないんじゃないの?」
「は?」
「いや、なんでもない」

第三話

「おっせ~な・・・・・」
クラスには、天希を除いたB組生徒全員が集まっていた。天希は今日、めのめ町を出て行くので、みんなでパーティーを開くことになったのだ。
「どこにいったんだ?去年は骨折しながらも体育祭に参加したくらいなのに・・・・・いったい何があったんだ?」
短気な宗仁は、歯ぎしりをしながら待っていた。
「天希~!お前がいなきゃ始まんねえんだよ!それとも恥ずかしいのか?隠れてないで出てこ~い!」
「重症なのかな・・・兄ちゃんは冷酷で容赦ないからなあ・・・・・」
「仕返しにいったんじゃないかな?」
「・・・ってかさ、宗仁、おまえ、クラスここじゃないだろ・・・・?」
天希と特に仲がいい友達の会話を、奧華はこっそり聞いていた。
「あっ!どこ行くんだ?」
教室のドアがいきなり開き、奧華は走って教室を出て行った。
「探しにいったのかな・・・・?」
「よ~し!俺も探しにいくぞ!お前らは教室で待機だ!」
宗仁が叫んだ。教室が一瞬静かになった。
「お前らまで行ったら、保健室に収まらないだろ」
そう言うと、宗仁も三年生の教室に向かって走っていった。

他のクラスは、だれかが旅に出るというような雰囲気はなく、いつも通りのHRをやっていた。三年C組の窓の外では、包帯を巻いた生徒が一人、がんばっていた。幽大はそれに気づいたのか、黒板の方に向いていた目が、急に窓の方を向いた。
「きやがったか・・・」

二年B組の教室では、生徒達がまだ待機していた。休み時間になり、三年C組の生徒は全員廊下へ出て行った。天希は窓をこして教室に入り込んだ。と同時に、廊下から幽大の癇癪声と、宗仁の叫び声が聞こえた。そして廊下を逃げていく三年生達が目に入った。天希はドアの方に向かった。こんどは奧華が幽大を説得している声が聞こえた。風が吹き始めた。
「やめろ!」
天希は二人の間にはいり、奧華をかばってかまいたちを受けた。前よりも痛みが増していたが、天希は立ったままだった。
「お前、そいつの分まで傷を受ける気か?」
「いいや、今度はそっちが受ける番だ!」
天希はいきなり殴り掛かった。幽大は風を起こしたが、目の前だったので、後輩の拳がヒットした。天希は、向かい風の力と、その逆方向に向かって食らわしたパンチの力で前に転んだ。しかし、そのおかげで風に飛ばされずにすむ。天希は今度は足払いをかけ、先輩を転ばせた。幽大が立ち上がると、次の拳が顔面めがけて飛んできた。幽大がよろけている間に、天希はしゃがみ込んで思いっきり足払いを食らわせた。
天希はこれを繰り返した。拳のほうは確実にダメージを与えていたが、陰に逃げ隠れてみていた奧華は、それが挑発にしか見えなかった。
奧華が予想したように、天希がやっていることは挑発が目的だった。途中でそれを止めると、今度は天希の顔面に向かって拳が飛んできた。殴られる直前、そしてその後も、天希は笑顔を作っていた。
(作戦成功!)
天希の作戦とは、相手を挑発し、接近戦に持ち込む、『デラストを使わない作戦』だった。過去にデラスト・マスターになった人物が、デラストの相性が悪い相手に使ったと言われている。かまいたちなどの遠距離攻撃は、自分の腕や足などを使わないので、いくら使ってもスッキリしないということに気がついた。『風』のデラストに対しては、遠距離線はかなり不利になるため、接近戦に持ち込み、
「ぎゃああああああああ」
・・・デラストの大技でとどめを刺す。

パーティーは無事に行われた。宗仁もそこにちゃんといた。
「これで安心してこの町を出ることができるな」
「勉強サボるなよ!」
「あんたならできるっしょ!」
「頑張れ!」
「手紙送れよ」
「いってらっしゃい!」
こうして、天希は旅に出たのだった。

最初に向かうのは、北にある『グランドラス』という町。そこには、かつて宗仁をデラストの力で押さえつけた先輩がいる。デラストについて詳しかったが、小学校卒業と同時にグランドラスに越していった。天希は、最初からそれと再会することを決めていたのだ。

第二話

「だーめ~でーす~っ!!絶対に!」
「そうかのう・・・でも本人がいきたいといってるし・・・・」
この話し合いは「なぜか」学校の第一会議室で行われた。琉治と、天希のクラスの担任の先生だけだったが、「なぜか」会議室での話し合いになった。

天希の担任は峠口一郎という名で、天希の伯父でもある。別居だが、一週間に一回は天希の家に顔を出す。大げさにいえば、毎週家庭訪問があるようなものだ。

この話し合いが行われたのは、昨晩、こんなことがあったからである。

「じいちゃん、じいちゃん」
「なんだ天希?」
「昨日来てたあいつ、いったい何者なんだ?」
「ああ、あいつがあの有名なアビスじゃよ」
「え?魔人アビス・フォレストのこと?」
アビス・フォレストは、その忠実な部下とともに、強力なデラストの力でめのめ町の数倍ある都市をいくつも支配している「魔人」である。めのめ町はその周りに囲まれた小さな港町で、いつその力の支配下になってもおかしくないような状態に陥っている。
魔人とは「種族」のことである。魔人と呼ばれる種族は数種類あるが、アビスはその中の「フォレスト族」に属する。魔人と呼ばれているのはその顔が普通の人間とかけ離れていて、背がかなり高く、肌や血の色が薄い緑か薄い青で、ほとんどが一般の人間に遥かに勝る怪力を持つからである。フォレスト族は、その名が英語で「森」を意味するように、肌の色が緑がかっている。一応、これらの種族も例の宇宙飛行士の子孫、つまり人間なのだ。ただ、通常の地球人そのままの姿の人間が、一般市民として広がり「すぎた」ために、迫害され、ひどい差別を受け、国によっては奴隷として扱うところもあった。
「くそ~、あいつら、みんながどれだけ迷惑してるかわかってんのかよ」
「わかってないから暴力を振るったり、税金をかってに増やしたりするんじゃろ」
「じゃあなんであいつはそれがわからないんだ?知らないからだ!教えてくれるやつがいないからだ!じゃあだれがやる?今まで誰もやんなかったことを誰がやるって言うんだ?そうだよ、俺がわからせてやるんだ!」
「え・・・・・まさか・・・・・・・・」

「しかし天希もそこまで冒険心があって勇敢だとは思わんかったのう」
「いい迷惑ですね!わかってないのはあなたと天希のほうですって!」
「しか・・・」
「言い訳は通用しませんよ!校長先生がなんと言いますか!」
「OK、といってたぞい」
「うそーん!」
「これで大丈夫じゃろ?」
「・・・・たとえ校長先生の許しがあっても、自分のクラスの生徒を危険な目に遭わせる訳にはいきません!」
「何がそんなに・・・」
「まず第一に、デラストを持ったからと言って、アビスに勝てる訳ではないんですよ!この地方ではあなたのように長い人もいるのに、天希はデラストを持ったばかりなんですよ!」
「だれもすぐ戦うとはいってない。強くなってから倒す、そのためが旅じゃて」
「・・・第二に、天希はまだ子供の分類なんですよ!一人が行ったら、他のみんなまで行こうとしますよ!」
「仲間は多い方が安心じゃろう?」
「いや、そうじゃなくて・・・」
「天希はこの、デラスト・マスターの子じゃぞ。このワシだって、十歳の頃はどれだけ噂が流れたか・・・」
「当時の六年前じゃないですか!あなたがデラストを持ったのは!」

一郎は、みんなが催眠術かなんかにかかっているのではないかと思った。クラスのみんなは、一人を除いて、誰も反対しなかった。その一人といっても、賛成、反対のどちらにも手を挙げなかった。
安土奧華(あずち おうか)という女子がそれだった。しかし先生(一郎)は彼女が手を挙げていないことに気づかなかった。彼女の席は一番後ろだった。
彼女はその日の休み時間は、落ち込んでいる様子で廊下を歩いていた。理由を尋ねる友達はいたが、だれにも返答しなかった。しかし天希がくると、顔を上げて、目を向かい合わせた。

「なんで?」

二人は同じ言葉をほぼ同時に言った。奧華はまた下を向いた。
「なんであのとき、お前だけ手を挙げなかったんだ?」
「なんで行っちゃうのよ?あんた、『副』学級委員長でしょ?あんたが行ったら、委員会が勤まらないわよ」
「なんでそんなこと言うんだ?おまえには関係ないだろ!」
このとき天希は、奧華が言いたいことはそのことではないだろう、と思っていた。
「言いたいことがあるならはっきり言えよ」
これを聞くと、奧華は教室に向かって走っていった。
「うっわ~」
「うっわ~」
話を盗み聞きしていた周りの女子達が、天希をにらんでいた。
「な、なんだよ?変な目で見るな!」
天希も教室と反対の方向へ逃げていった。突然誰かにぶつかった。
「わざわざ切り刻まれに来たのかい?この針鼠野郎!」
天希は顔が青ざめた。ぶつかった相手は、三井可朗の兄、幽大(ゆうだい)だった。機に食わない人間がいると、『風』のデラストの攻撃技『かまいたち』で傷だらけにしてしまう、不良生徒と噂の三年生である。
「この前はよくも弟を火あぶりにしてくれたな!てめえはただぶつかっただけの野郎共より多くの血を流さなきゃいけねえ!」
天希は戦闘態勢にはいった。と、突然ものすごい風がふきつけ、天希は壁に激しくぶつかった。
天希は火の玉を出したが、強風に吹き消されてしまった。今度は火の矢を放ったが、結果は同じだった。
今度は幽大のほうがかまいたちを放った。天希はギリギリのところまで引きつけ、炎の剣でかまいたちを防いだ。
チャイムが鳴ったが、戦いは続いていた。攻撃が相手に届かない分、天希の方が不利だった。突然、天希は大声を張り上げて相手を威嚇した。
一瞬風がやんだ。天希は手から炎の剣を出し、幽大に向かって走っていった。天希は相手の目の前で、剣を振り下ろした。
が、そのとき、天希の手には剣は握られていなかった。おどろいた天希の顔と、笑みを浮かべた幽大の顔が向かい合っていた。
「かまいたち!」
「うわああああああっ!!」

天希は包帯だらけで帰ってきた。その夜、天希は祖父にその戦いのことを話した。
「なんじゃ、知らんかったのか?やれやれ、そんなんで旅に出ようとはの・・・・・・」
「・・・・・・」
「天希、コンセントのない充電式の電化製品というのは使い続けるとどうなるかな?」
「・・・・電池がなくなる・・・・」
「そうじゃ天希、デラストもそれと同じように、使い続ければ力がなくなるのじゃよ。しかし、デラストは機械ではない。放っておけば自然と回復するものじゃよ」
「デラスト・エナジーか・・・」
天希は、琉治がだした本を見て言った。

「あびすサマ!あびすサマ!」
「おお、なんだ?」
「アノ、アノ四ツノでらすとヲ持ツでらすたー(デラストを使う人のこと)ノ顔ガワカリマシタ!」
「どれどれ・・・・・」

「は!?」

「どうした?アビス」
向かいの青年が言った。
「やべえよ、なんでオレはあのときに気づかなかったんだー!」
絶望するアビス。
「ふーん、なかなか面白いことになりそうじゃん」
天希の写真を見つめる青年。
そして・・・・・・

第一話

めのめ町。あまり有名ではない港町である。
この町に、峠口琉治(とうげぐちりゅうじ)という老人がいる。彼は以前、最強のデラスターといわれていた男である。そのデラストの正体は誰も知らない。
彼と一緒に暮らしているのが孫、本名を峠口天希(あずき)という。歳は14になったばかり。
天希の父大網(だいあみ)もまた有名なデラスターで、船を操るデラストを持つ。今は航海中で、天希にいつも手紙を送ってくれる。
母のことは、天希もよく覚えていない。父大網の話では、女であんなに強いやつは見たことがない、といっていた。
そんななかで、天希だけがデラストを持っていない。祖父の琉治は4歳のときにデラストを持った。最年少記録である。天希はのことについて不満を持っていた。

「いってきまーす!」
いつものように学校へ行く。
天希は元気で怖い者しらず、勇気があって友達思いな優しい少年である。得意教科は体育と国語。その他の教科も悪くはない。ただ、自習と宿題は嫌い。
本日は国語のテスト。天希は普段の授業とかわらない様子でいる。だが、もしかしたら彼がテストを受けるのは今日で最後になるかもしれない。

テストが始まった。概要、犠牲、葬式、唆す、・・・・・途中まで天希は調子が良かったが、デラストのことがまた頭の中を巡り始めた。
(なんで俺だけ・・・・父ちゃんだって10歳の頃には・・・あれ?しょうちょう・・しょうちょう・・象・・・なんだっけ?)
天希は普通なら国語のテストは85点は超えるほどだが、こうなると点が一気に下がってしまう。

放課後、天希は二重に頭が重かった。ため息をつきながら家に帰っていく途中、誰かが後ろからかけつけてきた。
内命宗仁(うちのみことそうじん)。初対面の人がこの名前を読めたことはない。途中まで読めたとしても、その場合はいつも最後の『ん』が抜ける。
背が高い。小学生の頃はいじめっ子で休み時間はろくなことをしないやつだったが、中学生になると他のクラスにライバルができ、クラスメイトを「友達」として扱うようになった。
「天希、ニュースだよ、大ニュース!大ニュー・・・・・・・」
宗仁は口をつぐんだ。天希は浮かない顔をしている。(また、デラストのこと考えてるな・・・・)宗仁はそのニュースについて話す気がなくなった。

天希はただいまもいわずに玄関に入った。すると、妙な靴がおいてある。かなり大きい飾り物みたいな靴で、1メートルくらいある。形も模様も変で、天希は玄関においてあるから靴だと解釈したが、普通は靴には見えない。
天希の家は、玄関に入ると目の前がリビングになっている。天希は下を向いて帰ってきたが、聞き慣れない声がするので、ふと顔を上げてみると、

「・・・人間じゃねえ・・・」

天希が見たのは、椅子に座っている琉治と、向かいに座っている、背が3メートルほどもある大男だった。天希はショックで動くことができなかった。
「おいジジイ、いや、峠口・・・いや、元デラスト・マスターさんよ、あんたが見つけたんだろ?四つの光はよお」
「四つの光じゃと?いったい何の話じゃ、勝手に人の家に上がり込んでおいて」
「とぼけんな!ほら、あれだよ、あれ!俺様にはあれが必要なんだ!」
「あれあれいわれても、ワシはお前さんとは初対面じゃからの」
「ほら、あっちでゴトゴトいってるやつ、あれが必要だっていってるんだよ!」
そういわれると、琉治はかなり古い箱を持ってきた。中で何かが暴れている。
天希は子供のときから、この音を聞いてきた。寝るときに、いつもこのゴトゴトという音が下から聞こえていたのだ。だが、琉治はそのことについて教えてくれたことはなく、音が聞こえてくる倉庫らしき部屋も、重く鍵がかけてあったが、琉治は
今、それについてのことを一言二言言われただけで持ってきてしまった。初対面なのに。
「遊びにきたぞー!」
クラスメイトの、三井可朗(みついかろう)が、ノックもせずに堂々と入ってきた。が、その不自然な光景を見ると、やはり彼も金縛りにあったように動けなくなった。
「へへへ・・・・これだよこれ、俺様が欲しかったのは」
大男は言った。ふたはかなり厳重だったが、大男はそれを怪力でこじ開けた。
すると、中に入っていたのは、太陽のように眩しい四つの光の玉だった。それぞれが、赤、青、黄色、緑、と、違う色の光を放っている。
だが、箱の中に入っていたのは一瞬だけで、ふたが開けられると、四つの玉は彗星のように光の線を描いて飛び出した。そのうち二つの玉は、何かを求めるように、ものすごい速さで玄関を出て行った。天希と可朗は、首だけが、飛んでいった二つの光の方を向いた。と、ほぼ同時に、二人は何かものすごいエネルギーを持つ物に突き倒された。
琉治は玄関の方を振り向いたが、大男は空っぽの箱を見つめたままだった。大男の方は箱の中身のことしか考えていなかったせいか、玄関の方にいる二人のことなど全く気づかない様子で、がっかりして外へ出て行った。
天希と可朗はしばらく動けなかった。天希は大男が玄関ドアを閉めた衝撃でなんとか立ち上がった。すると、今度は横から何かが勢いよく襲いかかってきた。天希はまたつきとばされた。最初はそれが何かわからなかったが、つぎにまた天希に襲いかかったときに、それが三井可朗であることがわかった。
天希は横に転がって体当たりをよけたが、なぜ親友の可朗が自分に襲いかかってくるのかわからなかった。可朗は天希をにらんでいた。うなり声をあげると、地面から太い植物の蔓が天希めがけて襲いかかった。天希は両手で防御の態勢をとった。
「わあああああ!」
すると、突然天希のまわりに炎の壁が現れ、蔓は一瞬にしてこげてしまった。腕を植物の蔓に変化させ、次の攻撃をしようとしていた可朗はおどろいた。火は次の蔓に引火し、可朗の方にどんどん向かってくる。逃げる術はなかった。
可朗は悲鳴を上げながら火に包まれた。が、天希は火の中にいても全然平気だった。彼はそのことに気づいた。
(もしかしたら、これはデラストの力なのか?だとしたら、可朗の火を吸収できるかもしれない)
天希はまず、自分の周りで燃え上がっている炎を吸収し、今度は可朗に向かって両手を向け、その炎を思いっきり両手で吸い込んだ。なんとか可朗はたすかり、理性も戻ったようだった。天希はあの箱のことについて気になってしょうがなかった。
「なあ爺ちゃん、あれっていつからあったの?」
「なにが?」
「デラストが入ってた箱だよ!俺、小さいときからずっとあの音聞いてきたんだけど・・・・・」
「・・・・・・・・」
「爺ちゃん、もしかして・・・・・」
「・・・・・そのとおりじゃ、おまえのデラストが手に入らなかったのは、その、お前が今持っている火炎のデラストが、既にお前を選んでいたからじゃよ」
「じゃあ、なんで俺に渡さないんだよ!爺ちゃんは俺がこのデラストに選ばれたって知ってたんだろ?」
「・・・・お前を危険な目にはあわせたくなかった・・・・」
「爺ちゃん・・・・・」
「そして、最年少記録はワシのままでいたかった・・・・」

「え?」

「三歳のときじゃったよ、お前をこのデラストが選んだのは」
「ええぇぇえ~~~~~!?」
「わるかった天希、許してくれ。でも、デラストを持ってしまっては仕方ない。くれぐれもイタズラなんかに使わないようにな」

一方その頃、大男アビスは、自分のアジトへ帰り着いていた。
「ちっ、失敗だったぜ、見つかったことは見つかったけどよ、どっか飛んでいっちまった」
「そうかい、じゃあ探すしかないね、そのデラストを持つ人間を」
アビスが腰をかけた向かいには、一人の青年が座っていた。
「じゃあ、引き続き捜索頼むよ。ボクはキミのことを信頼しているんだからね」