第四話

天希の家は3階建てで、山の斜面にめり込むようにして建っていた。天希はめのめ町から船以外で他の国や町にいったことがほとんどない。だから、もし友達の家に行くだけで帰ってきても、天希にとっては大冒険の始まりだった。

その山は別に峠口家の領地などではないが、家から2キロくらいまでは、ほとんど自分の庭として使っていた。だから、その辺にとりつけてある遊具を見れば、天希は自分がどこにいるかわかる。ただし、この大冒険を始めるには、それより広い範囲の森に出て、さらに山を越え、見たことのない外の世界に出なければならない。そう考えるだけで、天希はそのうれしさに、めのめ町の方に向かって叫ばずにはいられなくなる。
「ぜっっっっってーかえってくるぞおおおおおおおー!」
そして反対側にも。
「ぜっっっってー倒してやるからなあああああああまってろよおおおーーーーー!」
二つの山彦は、それぞれの方向へ響いていった。

頂上から見てわかるように、山というよりは低くて小さい山脈のようだった。アビスがめのめ町を攻めてこないのは、この山がある為だと言われている。めのめ町と他の町との境目がこの山脈で、海を渡る以外はこの山を越えるしか、めのめ町に侵入する方法がない。
天希は、初めて自分一人でめのめ町を出たことがうれしくてたまらなかった。外の世界に向いた斜面を、転がりながら下っていった。
「ぎゃっ!」
突然何かにぶつかった。木だった。
「あ、そうか、こっちにも森はあって当然だよな・・・・・」
天希は、こっちの森に何があるかわからないので、うれしくて走り出したい感情を抑えて、歩いていくことにした。

天希が森の中間あたりにはいった頃、ある一人の少年が、めのめ町の方角から『外の世界』の森にはいってきた。
「おーい!天希ー!」
三井可朗だった。
「まったく、世話のやけ・・・・・ぶへっ!」
「誰か呼んだ?」
可朗は消えていた。
「??????」
天希は誰に呼ばれたのか、可朗は自分がどうなったのかが疑問だった。可朗はどうやら落とし穴に落ちたようだ。
「誰だよ、こんなところに落とし穴を掘るやつは・・・・・・」
突然、誰かの走る音が二人の耳にはいった。こっちへ向かっている。
やってきたのは、50くらいの大男だった。その男は、天希の方を見ると立ち止まった。
「チッ、もう上がってきやがったか・・・・・まあいい、相手はガキだ」
二人は戦闘準備を始めた。

誰にも気づかれてない可朗は、穴からそーっと顔を出した。誰かが二人、戦っている影があった。
「天希!」
可朗は穴から飛び出てきた。
「可朗!?」
「天希ー・・・・ぶへっ!」
「消えた?」
「ああ、俺様の作った落とし穴だ。そうか、落ちたのはあいつの方だったのか」
そう言うと、その男、長谷大山(ながたに たいざん)は、再び天希の方へ向かっていった。
「くそっ!」
天希は素早い動きで大山の後ろに回り、思いっきり背中を殴った。
「ぎゃあああああ!」
可朗はまた穴から顔を出した。悲鳴を上げて倒れたのは天希のほうだった。
「痛ッてーー!」
「天希!?」
「ふはははははははは!相手のデラストを確認せずに攻撃に出るとは!」
「何!?」
「俺様のデラストは『岩石』のデラストだ!」
「つまり、体を岩のように硬くできるって言うことか」
「そこら編に転がっている石っころにもなれるということかい?」
可朗が冗談を言った。
「今にわかる」
突然、地面が揺れだした。大山が両手を上げると、地面からいくつもの岩石が浮き上がってきた。既に地面から出た物は、大山の周りを浮遊している。
「げげっ!」
「くそう、相手が岩石じゃ俺のデラストが通用しねえ!」
「ふっ、だと思って僕が来てあげたんだよ」
「・・・・役に立たなそうだけどな・・・・・」
大山の岩が飛んできた。天希はジャンプしたり、左右に移動したりしてかわしたが、可朗はせいぜい頭を引っ込めることしかできなかった。
「うわあああ」
一番大きな岩だったが、転がっていって可朗のいる穴を塞いでしまった。
「可朗!」
「次話お前の番だ」
(くっ、相手があれじゃどうすることもできねえ!熱で倒す方法はあるけど、ずっと動かずにいないといけないからな・・・・・・それに、相手は大人だ、もしあいつのデラスト・エナジーが切れたとしても、力では勝てないな・・・)
突然何かが落ちてきた。それは、次の攻撃の準備をしていた大山の頭に直撃した。
「・・・・・・・」
「残念。相手のデラストを確認せずに攻撃に出るとはね」
天希のうしろにある、大きな岩の下から声がした。
「ふっ!」
地面からまた岩石が現れ、その岩の下にある物を押しつぶそうとした。しかし、その岩石がくっついた瞬間、粉々に砕け散った。
「植物ってのはね、一番力が強いんだよ」
「可朗!」
地面の雑草が急激に伸び、大山の体に絡み付いた。
「くそ、放せ!」
「今だ天希!」
天希は大山に向かって火の玉を投げた。
「へっ、そんな物がこの俺様に通用するか?」
大山が言うと、可朗はそれに答えるように言った。
「大人がそんなにバカじゃ、社会には通用しないよ」
大山に絡み付いていた雑草が、いきよいよく燃え始めた。
「ぐぁあああああ!そういうことか!」
「どうしたんだい?通用しないはずなんだろ?」
「助けてくれええええ!」
「・・・・・・もういいだろ」
「え?」
天希は炎を吸収し始めた。

「あびすサマ!あびすサマ!メノメ町ニハモウイナイソウデス!」
「『もう』いない!?どういうことだ!」
「あびすサマヲタオスタメニ旅ニデタソウデス」
「デラスターになったばかりの小僧共ごときが、この俺様を倒せるとでも思っているのか!」
アビスは机を強くたたいた。
「でもラクなんじゃないの?わざわざ向こうからデラストを渡しにくるってのは」
「まあ、その二つは探す手間が省けるってもんだ」
「でも、倒せるかどうかはわからないんじゃないの?」
「は?」
「いや、なんでもない」

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