第三話

「おっせ~な・・・・・」
クラスには、天希を除いたB組生徒全員が集まっていた。天希は今日、めのめ町を出て行くので、みんなでパーティーを開くことになったのだ。
「どこにいったんだ?去年は骨折しながらも体育祭に参加したくらいなのに・・・・・いったい何があったんだ?」
短気な宗仁は、歯ぎしりをしながら待っていた。
「天希~!お前がいなきゃ始まんねえんだよ!それとも恥ずかしいのか?隠れてないで出てこ~い!」
「重症なのかな・・・兄ちゃんは冷酷で容赦ないからなあ・・・・・」
「仕返しにいったんじゃないかな?」
「・・・ってかさ、宗仁、おまえ、クラスここじゃないだろ・・・・?」
天希と特に仲がいい友達の会話を、奧華はこっそり聞いていた。
「あっ!どこ行くんだ?」
教室のドアがいきなり開き、奧華は走って教室を出て行った。
「探しにいったのかな・・・・?」
「よ~し!俺も探しにいくぞ!お前らは教室で待機だ!」
宗仁が叫んだ。教室が一瞬静かになった。
「お前らまで行ったら、保健室に収まらないだろ」
そう言うと、宗仁も三年生の教室に向かって走っていった。

他のクラスは、だれかが旅に出るというような雰囲気はなく、いつも通りのHRをやっていた。三年C組の窓の外では、包帯を巻いた生徒が一人、がんばっていた。幽大はそれに気づいたのか、黒板の方に向いていた目が、急に窓の方を向いた。
「きやがったか・・・」

二年B組の教室では、生徒達がまだ待機していた。休み時間になり、三年C組の生徒は全員廊下へ出て行った。天希は窓をこして教室に入り込んだ。と同時に、廊下から幽大の癇癪声と、宗仁の叫び声が聞こえた。そして廊下を逃げていく三年生達が目に入った。天希はドアの方に向かった。こんどは奧華が幽大を説得している声が聞こえた。風が吹き始めた。
「やめろ!」
天希は二人の間にはいり、奧華をかばってかまいたちを受けた。前よりも痛みが増していたが、天希は立ったままだった。
「お前、そいつの分まで傷を受ける気か?」
「いいや、今度はそっちが受ける番だ!」
天希はいきなり殴り掛かった。幽大は風を起こしたが、目の前だったので、後輩の拳がヒットした。天希は、向かい風の力と、その逆方向に向かって食らわしたパンチの力で前に転んだ。しかし、そのおかげで風に飛ばされずにすむ。天希は今度は足払いをかけ、先輩を転ばせた。幽大が立ち上がると、次の拳が顔面めがけて飛んできた。幽大がよろけている間に、天希はしゃがみ込んで思いっきり足払いを食らわせた。
天希はこれを繰り返した。拳のほうは確実にダメージを与えていたが、陰に逃げ隠れてみていた奧華は、それが挑発にしか見えなかった。
奧華が予想したように、天希がやっていることは挑発が目的だった。途中でそれを止めると、今度は天希の顔面に向かって拳が飛んできた。殴られる直前、そしてその後も、天希は笑顔を作っていた。
(作戦成功!)
天希の作戦とは、相手を挑発し、接近戦に持ち込む、『デラストを使わない作戦』だった。過去にデラスト・マスターになった人物が、デラストの相性が悪い相手に使ったと言われている。かまいたちなどの遠距離攻撃は、自分の腕や足などを使わないので、いくら使ってもスッキリしないということに気がついた。『風』のデラストに対しては、遠距離線はかなり不利になるため、接近戦に持ち込み、
「ぎゃああああああああ」
・・・デラストの大技でとどめを刺す。

パーティーは無事に行われた。宗仁もそこにちゃんといた。
「これで安心してこの町を出ることができるな」
「勉強サボるなよ!」
「あんたならできるっしょ!」
「頑張れ!」
「手紙送れよ」
「いってらっしゃい!」
こうして、天希は旅に出たのだった。

最初に向かうのは、北にある『グランドラス』という町。そこには、かつて宗仁をデラストの力で押さえつけた先輩がいる。デラストについて詳しかったが、小学校卒業と同時にグランドラスに越していった。天希は、最初からそれと再会することを決めていたのだ。

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