第一話

めのめ町。あまり有名ではない港町である。
この町に、峠口琉治(とうげぐちりゅうじ)という老人がいる。彼は以前、最強のデラスターといわれていた男である。そのデラストの正体は誰も知らない。
彼と一緒に暮らしているのが孫、本名を峠口天希(あずき)という。歳は14になったばかり。
天希の父大網(だいあみ)もまた有名なデラスターで、船を操るデラストを持つ。今は航海中で、天希にいつも手紙を送ってくれる。
母のことは、天希もよく覚えていない。父大網の話では、女であんなに強いやつは見たことがない、といっていた。
そんななかで、天希だけがデラストを持っていない。祖父の琉治は4歳のときにデラストを持った。最年少記録である。天希はのことについて不満を持っていた。

「いってきまーす!」
いつものように学校へ行く。
天希は元気で怖い者しらず、勇気があって友達思いな優しい少年である。得意教科は体育と国語。その他の教科も悪くはない。ただ、自習と宿題は嫌い。
本日は国語のテスト。天希は普段の授業とかわらない様子でいる。だが、もしかしたら彼がテストを受けるのは今日で最後になるかもしれない。

テストが始まった。概要、犠牲、葬式、唆す、・・・・・途中まで天希は調子が良かったが、デラストのことがまた頭の中を巡り始めた。
(なんで俺だけ・・・・父ちゃんだって10歳の頃には・・・あれ?しょうちょう・・しょうちょう・・象・・・なんだっけ?)
天希は普通なら国語のテストは85点は超えるほどだが、こうなると点が一気に下がってしまう。

放課後、天希は二重に頭が重かった。ため息をつきながら家に帰っていく途中、誰かが後ろからかけつけてきた。
内命宗仁(うちのみことそうじん)。初対面の人がこの名前を読めたことはない。途中まで読めたとしても、その場合はいつも最後の『ん』が抜ける。
背が高い。小学生の頃はいじめっ子で休み時間はろくなことをしないやつだったが、中学生になると他のクラスにライバルができ、クラスメイトを「友達」として扱うようになった。
「天希、ニュースだよ、大ニュース!大ニュー・・・・・・・」
宗仁は口をつぐんだ。天希は浮かない顔をしている。(また、デラストのこと考えてるな・・・・)宗仁はそのニュースについて話す気がなくなった。

天希はただいまもいわずに玄関に入った。すると、妙な靴がおいてある。かなり大きい飾り物みたいな靴で、1メートルくらいある。形も模様も変で、天希は玄関においてあるから靴だと解釈したが、普通は靴には見えない。
天希の家は、玄関に入ると目の前がリビングになっている。天希は下を向いて帰ってきたが、聞き慣れない声がするので、ふと顔を上げてみると、

「・・・人間じゃねえ・・・」

天希が見たのは、椅子に座っている琉治と、向かいに座っている、背が3メートルほどもある大男だった。天希はショックで動くことができなかった。
「おいジジイ、いや、峠口・・・いや、元デラスト・マスターさんよ、あんたが見つけたんだろ?四つの光はよお」
「四つの光じゃと?いったい何の話じゃ、勝手に人の家に上がり込んでおいて」
「とぼけんな!ほら、あれだよ、あれ!俺様にはあれが必要なんだ!」
「あれあれいわれても、ワシはお前さんとは初対面じゃからの」
「ほら、あっちでゴトゴトいってるやつ、あれが必要だっていってるんだよ!」
そういわれると、琉治はかなり古い箱を持ってきた。中で何かが暴れている。
天希は子供のときから、この音を聞いてきた。寝るときに、いつもこのゴトゴトという音が下から聞こえていたのだ。だが、琉治はそのことについて教えてくれたことはなく、音が聞こえてくる倉庫らしき部屋も、重く鍵がかけてあったが、琉治は
今、それについてのことを一言二言言われただけで持ってきてしまった。初対面なのに。
「遊びにきたぞー!」
クラスメイトの、三井可朗(みついかろう)が、ノックもせずに堂々と入ってきた。が、その不自然な光景を見ると、やはり彼も金縛りにあったように動けなくなった。
「へへへ・・・・これだよこれ、俺様が欲しかったのは」
大男は言った。ふたはかなり厳重だったが、大男はそれを怪力でこじ開けた。
すると、中に入っていたのは、太陽のように眩しい四つの光の玉だった。それぞれが、赤、青、黄色、緑、と、違う色の光を放っている。
だが、箱の中に入っていたのは一瞬だけで、ふたが開けられると、四つの玉は彗星のように光の線を描いて飛び出した。そのうち二つの玉は、何かを求めるように、ものすごい速さで玄関を出て行った。天希と可朗は、首だけが、飛んでいった二つの光の方を向いた。と、ほぼ同時に、二人は何かものすごいエネルギーを持つ物に突き倒された。
琉治は玄関の方を振り向いたが、大男は空っぽの箱を見つめたままだった。大男の方は箱の中身のことしか考えていなかったせいか、玄関の方にいる二人のことなど全く気づかない様子で、がっかりして外へ出て行った。
天希と可朗はしばらく動けなかった。天希は大男が玄関ドアを閉めた衝撃でなんとか立ち上がった。すると、今度は横から何かが勢いよく襲いかかってきた。天希はまたつきとばされた。最初はそれが何かわからなかったが、つぎにまた天希に襲いかかったときに、それが三井可朗であることがわかった。
天希は横に転がって体当たりをよけたが、なぜ親友の可朗が自分に襲いかかってくるのかわからなかった。可朗は天希をにらんでいた。うなり声をあげると、地面から太い植物の蔓が天希めがけて襲いかかった。天希は両手で防御の態勢をとった。
「わあああああ!」
すると、突然天希のまわりに炎の壁が現れ、蔓は一瞬にしてこげてしまった。腕を植物の蔓に変化させ、次の攻撃をしようとしていた可朗はおどろいた。火は次の蔓に引火し、可朗の方にどんどん向かってくる。逃げる術はなかった。
可朗は悲鳴を上げながら火に包まれた。が、天希は火の中にいても全然平気だった。彼はそのことに気づいた。
(もしかしたら、これはデラストの力なのか?だとしたら、可朗の火を吸収できるかもしれない)
天希はまず、自分の周りで燃え上がっている炎を吸収し、今度は可朗に向かって両手を向け、その炎を思いっきり両手で吸い込んだ。なんとか可朗はたすかり、理性も戻ったようだった。天希はあの箱のことについて気になってしょうがなかった。
「なあ爺ちゃん、あれっていつからあったの?」
「なにが?」
「デラストが入ってた箱だよ!俺、小さいときからずっとあの音聞いてきたんだけど・・・・・」
「・・・・・・・・」
「爺ちゃん、もしかして・・・・・」
「・・・・・そのとおりじゃ、おまえのデラストが手に入らなかったのは、その、お前が今持っている火炎のデラストが、既にお前を選んでいたからじゃよ」
「じゃあ、なんで俺に渡さないんだよ!爺ちゃんは俺がこのデラストに選ばれたって知ってたんだろ?」
「・・・・お前を危険な目にはあわせたくなかった・・・・」
「爺ちゃん・・・・・」
「そして、最年少記録はワシのままでいたかった・・・・」

「え?」

「三歳のときじゃったよ、お前をこのデラストが選んだのは」
「ええぇぇえ~~~~~!?」
「わるかった天希、許してくれ。でも、デラストを持ってしまっては仕方ない。くれぐれもイタズラなんかに使わないようにな」

一方その頃、大男アビスは、自分のアジトへ帰り着いていた。
「ちっ、失敗だったぜ、見つかったことは見つかったけどよ、どっか飛んでいっちまった」
「そうかい、じゃあ探すしかないね、そのデラストを持つ人間を」
アビスが腰をかけた向かいには、一人の青年が座っていた。
「じゃあ、引き続き捜索頼むよ。ボクはキミのことを信頼しているんだからね」

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