第二十話

この日は、この辺一帯はほとんど無風だった。それにも関わらず、草木は突風でも吹いたように、突然ざわめき、そしてやんだ。
雷霊雲仙斬とデーマの耳に届いたのは、その草木の音と、地面を伝って届いた衝撃音だった。
「・・・始まったか」雷霊雲は、コーヒーの入ったカップを、口の前で止めてつぶやいた。

しかし、現場にいた天希達にとっては、ものすごい轟音だった。建物を壊すときに使うハンマーを遙かにしのぐ衝撃音だった。
「げえっ、耳が壊れる!」
しかし、カレンはそんなことも気にせずに、アビスに向かって攻撃を仕掛けた。目の前まで一気に距離を縮め、アビスの次の攻撃が来る前に、一撃を喰らわせようとしたが、それは隙どころか、アビスがその攻撃に対応する時間は、彼にとっては十分にあった。
(!?)
アビスの動きは、カレンの予想をしのいで遙かに素早かったのだ。実際は逆の結果になり、カレンの攻撃がでる前に、アビスが彼女を壁まで吹き飛ばしたのだ。
「カレンちゃん!」
心配する間もなく、アビスはあとの二人の行る場所へ突っ込んできた。天希は素早くその場から離れたが、可朗が続いて移動しようとしたときには、アビスはもうその場にいた。
「ふん!」
アビスは肘を振り下ろした。可朗はギリギリの所で防御態勢になったが、そのまま地面にめり込み、下の階まで落とされた。
「可朗!」

奥華はメルトクロスの傍らに座っていた。メルトクロスは気絶からさめたばかりだった。
「うーん、僕にとってはだいぶ苦しい作用だったな・・・タバコとかと違って、生涯にわたって負うような作用がない分マシだけど」
奥華は別のことを考えていて、答えなかった。
(さっきものすごい音がしたけど、天希君達、大丈夫かな・・・それにしても、この人、落ち着いて顔見るとカッコイイ・・・やっぱ、本当に天希君のお兄さんなんだろうなあ・・・そしたら、この二人のお母さんって、どんだけ美人なんだろう・・・)
メルトクロスは独り言を連ね続けていたが、奥華の耳には全く入らず、奥華自身も想像にふけっていた。しかし、その時だった。
(!?・・・っ・・・)
突然の頭痛が、奥華を襲った。
(消セ!ソイツヲ消セ!)
(え・・・?まさか、こんな時に・・・!)
奥華は頭を押さえて苦しみ始めた。
「・・・?どうしたんだ!?」メルトクロスが言った。
(やめて!こんな時に出てこないで!)奥華は心の中で叫んだ。
(ソイツヲ・・・消ス!)
(お願い!もう、誰も・・・苦しめ・・・たく・・・・・)
突然、奥華は止まり、腕は下に垂れた。
「・・・どうしたんだい・・・?」後ろからメルトクロスが訊ねた。
「・・・消すの・・・」
「消す・・・?」
「クククッ!!」振り向いたときの奥華の目は、彼女自身の目ではなかった。メルトクロスは、その目に見覚えがあったが、それすら気にする暇もなかった。奥華はすぐさまメルトクロスに襲いかかろうとした。
「うわあっ、何だ!?」
しかし、ちょうどその時、天井が崩れ、上から奥華の頭めがけて落ちてきたものがあった。
「ぐえっ」
奥華は床に倒れた。可朗も背中を床に打ち付け、気絶した。

「ちくしょう、あんなの直に喰らったら、ひとたまりもねえぞ!」
その時点で、天希はアビスとの距離を十分にとっていた。天希はアビスに向かって火の玉を投げたが、あまりダメージを受けている様子はなかった。
「どうやら、遠距離戦を好むようだな・・・俺もその意見に賛成だ」
アビスはそう言うと、右の手の平を天希のいる方向へ向かって押しだした。天希は、これもまた遠距離技だと思って、その場から離れようとしたが、その衝撃は、アビスの動きとほぼ同時にきた。
「何!?」
天希はそのまま壁の方へ突き飛ばされ、厚い壁を突き破って外に放り出された。が、天希はまるで何かをひっかけるように、壊れた壁の端っこに向かって手を伸ばした。すると、天希はそれに吸い付けられるように、戻ってきた。
「へっ、これが基本能力か、少しは便利だな」
「ふん、いい気になるなよ、ガキどもが!」
ちょうど可朗も階段を上って戻ってきていた。天希と可朗はアビスの方へ向かっていった。アビスは回し蹴りで双方ともなぎ倒そうとした。だが、確かにその攻撃は当たったのだが、そこにあったのは天希と可朗本人ではなかった。
「ぬっ!?人形か」
本物はすぐ後ろにいた。本人達も驚いていたので、すぐに攻撃に移るというわけには行かなかったが、どのみち、それがカレンによるサポートであることには間違いなかった。アビスは彼女をにらんだ。カレンも父親の目をじっと見た。
「おっと、よそ見は禁物だよ」可朗は蔓を投げた。アビスはその蔓に捕らえられた。しかし、難なくその蔓をちぎってふりほどいた。
「俺にそんな小細工が効くとでも思っているのか!」アビスは可朗の腕をつかんで、へし折ろうとしたが、可朗はその腕を蔓に変えて抜け出した。
「チッ、身体系のデラストが・・・しかし、他の奴等はそうはいかねえ!」
アビスは今度は天希をつかもうとした。天希は炎を身にまとったが、その攻撃に対する防御としてはほとんど効果がなかった。それでも、つかまれた後もその炎はアビスにダメージを与えていた。
「チッ、仕方ねえ」アビスはつかんでいた手を広げた。と、そこから圧力の波が飛び、天希はまた壁まで飛ばされた。しかし、さっきほど強い力ではなかった。天希はすぐに床に足をしっかりとつき、体勢を立て直した。アビスは体ごとまっすぐ天希の方に向いていた。カレンは天希の方へ行って助けようとしたが、この状況では、追いつくことができなかった。
(だめだ・・・)
アビスは走っている途中で、地面をつま先で軽くつつくと、そこから大きくジャンプし、天希の目の前に立った。
「大網の息子だからと言って、俺が手加減すると思うなよ!」アビスは天希の頭を握りつぶそうとした。しかし同時に、『それ」は来た。
「ぐっ!?」
天希はペチャンコにされるのを覚悟で目をつぶっていたが、その凄まじいはずの圧力を感じる前に、アビスの手が震えながら自分の顔から離れていくのが分かった。
「畜生、こんな時に切れやがって!」
アビスは慌てて自分の懐を探り始めた。天希と可朗は、一瞬その行動の意味が理解できなかったが、カレンはいずれにせよこれがチャンスだと思い、すぐにアビスの方へ向かっていった。
「あった!」
アビスの手には、お約束のごとく、一本のビンが握られていた。しかし、その存在が誰の目にも明らかになったときには、カレンがその目の前まで、手をのばしていた。
「クソが!」
しかし、ビンを奪うために前方に向かってジャンプしたカレンを、上からはたき落とすくらいの力はまだアビスには残っていた。カレンには指先にガラスの質感を感じたが、それと同時に、背中に一撃をたたき込まれたのが分かった。それは先ほどまでのアビスに比べれば威力は衰えていたものの、体勢が体勢で、そこからすぐに起きあがって、再びビンの奪回に転じることは不可能だった。ビンのふたが開けられ、その中身がアビスの口の中に流し込まれ、吸収されるまでの時間を、カレンはその場から離れるのに使った。
「ククククク・・・これでまた戦いを再開できるぜ」
カレンは天希と可朗の間に立っていた。
「そらァ!!」
アビスは三人のいる方向へ飛びかかってきた。可朗は左へ、カレンはそれを見て右へ跳んだが、天希はアビスの目をにらんだまま、その場に残っていた。
「あ、天希!」
(なぜ・・・?)
アビスはそのまま空中から、天希の頭めがけて右腕を振り下ろそうとした。しかし、一瞬よろめいたものの、天希はそれを逆手に、迫ってくるアビスの顔に向かって、炎を噴射した。
「ぶ」
アビスにとってこの攻撃は予想外だったが、右腕は目的地点に振り下ろされた。その時の右腕は、可朗とカレンも見ていたとおり、天希の頭とは15センチほど離れていたはずだった。明らかにその攻撃が命中する軌道ではなかった。しかし、天希の頭は、まるでアビスの腕が作り出した小さな風に吸い込まれるように、腕の真下まで引っ張られ、命中した。
「がッ・・・」
アビスはその右腕を、反動ですぐに引き戻した。それで右半身が後ろになったが、それを利用して、今度は右足による蹴りを繰り出した。それほどの勢いではなかったが、天希の体は斜め上へ飛ばされた。アビスの攻撃によって空中に放り出されたものとしては、少しゆっくりな気がした。
「ぐあっ・・・」
天希はのどを一瞬ならしたが、すぐに歯を食いしばり、空中にいる間に、自分が今倒れていた床の方向に向かって、炎を噴射した。
「どうした?的がはずれてるぞ!」
アビスはそう言ったが、実際、天希がアビスをねらったというのは少し間違いがあるかもしれない。今まで天希が攻撃に使ってきた炎とは少し違った。放たれた紅蓮の花は、そのまま回りに広がっていった。
(なんだ、この炎は!?)
もっとも早く、その違いに気づいたのは可朗だった。その理由が彼には分からなかったが、当人が地面に体を打ちつけた音がすると、すぐさまその方向に振り向いた。
「よそ見すんなって言ったのは、どこのどいつだったっけなあ!?」
可朗はすぐにその声の主の方を向いた。同時に横からなぎ倒されるような衝撃とともに、床に倒れた。可朗はそのまま意識を失った。天希も床にぶつかった後は動かなかった。

激闘の波がわずかながらとどいているにも関わらず、雷霊雲は普段通りに食事を作っていた。
「さてと・・・デーマ、そこの塩をとってくれ」
そう言いながら、彼は思った。
(まず、実力でかなうというのは遠い話だ。戦いをベースとし、その中に、思考と感情という調味料を加えなければ、新しい世界を目指す戦いに、勝利は見えない。うまい料理を食うには、平和な世界が必要だな。料理中に、音楽を聴くのはいいが、戦いの音は耳障りだ。もし、あの男が新たなる世界を作るとしても、私のつくるまずい料理のように、人に気に入られない世界をつくらないよう願うか・・・新しい世界が、必ずしも平和とは限らないからな・・・そう、私の体験からしても、それは間違いない)
デーマは塩を用意し、テーブルの上に食器を配置していた。
「・・・うーむ、やっぱり胡椒を入れすぎたかな」雷霊雲は味見をしながら言った。

部屋の中は炎が充満していた。アビスは少し咳をしていた。
「ゲホッ・・・さてと、残るはお前だけだ、ネロ・カレン・バルレン」
カレンの方は、アビスのようにはなっていなかった。彼女は炎の中から姿を現した。
「なるほど、『意志の力」のおかげで、お前は大丈夫なわけだ」
彼女は聞き慣れない単語を耳にした。それでも、表情はかたいままだった。
「ずいぶんと仲間に大切にされてるじゃねえか」
まるで他人事のようなことをアビスは口走ったが、カレンにとってその言葉のとらえ方は、もっと主観的だった。
「ずいぶんと派手にやったが、これが最後のチャンスだ。おとなしく俺に従えば、今までのことは帳消しだ。だが、それを断れば、逆にこれから先、お前は闇の中で生きることになる。いや、悪ければ、生きるという部分だけ否定される可能性も、無くはない」
カレンは動かなかった。
「お前は俺が本当に、自分の父親なのか、疑っているところがあるようだな。確かにこの姿なら無理もない。今お前の目の前に立っているのは一体誰なのか・・・それはおまえ自身が決めることだ。もし、俺が父親でなかったら、お前は負けるのを承知で俺に向かってくるだろう。そしてもし俺がお前の父親だったら、お前は俺に剣先を向けるようなことはしないはずだ。だが、俺が果たしてどちらなのか分からないのに、実行されるのはおかしいだろう?」
カレンは相槌を打たなかった。
「だが、逆にすれば単純明快だ。つまり、俺の仲間になることを選んだお前は俺の娘であり、戦うことを選んだお前は赤の他人、と言うわけだ。つまり、選択の余地はお前にある。まあ、真実はあるが、ここで再び、俺が誰なのかをお前が決めるのだ」
さっきまでのアビスの言葉は、カレンの頭の中で無限に渦を巻いていた。その中心に、悲しみと、怒りが流れ込む。しかし、今の彼女はどちらの感情も表してはいなかった。
「さあ、どうする・・・?」
アビスが吐いた息には、少しすすが混じっていた。アビスの方も、知らずの間に、炎からダメージを受けていたのだ。カレンは右足をゆっくりと前に出した。
「おっ・・・」
その右足のかかとが再び持ち上がったかと思うと、カレンは疾風のように走り、アビスの背後へ回った。しかし、アビスはそれについていけていた。
「遅い!」
アビスは彼女の足下に手の平を向けた。カレンはすぐその場から飛び退いたが、床には穴が空いた。
「どうやら、俺様が父親ではないと・・・そっちを選んだようだな!ならば俺も、容赦はしない!お前が『家族ではない」と言ったのと同じ事だからな!」
その言葉を、カレンはその瞬間は深く飲み込まなかった。アビスも、自分の発した言葉に、一瞬耳を貸したが、そんなことはどうでも良かった。
「喰らええ!」
アビスの手から、光の玉が放たれた。天希が喰らったものとは違い、その性質ははっきりしていた。スピードはあったが、わずかにカレンの頬をかすめただけで、そのまま壁に当たって崩れた。カレンは今の攻撃を最後まで観察すると、なぜか小さくうなずいた。アビスにはそれは見えず、すぐに突進してきた。
「うおおうお!」
アビスの手が頭の上50センチくらいに現れた。そこからかわすのでは、さっきの天希のように巻き込まれてしまうと思ったカレンは、右手に人形を出し、地面に向かって、アビスと同じ技を繰り出させた。
「何!?」
本物ほどの威力はなくても、効果はあった。カレンの体は少しアビスの方へ倒れそうになっただけだった。すぐさま次の攻撃へ転じたが、それはアビスも同じだった。お互いの右手が、一瞬光ったかと思うと、交差した点を通り抜けて、光の玉はそれぞれ相手の方へ飛んでいった。カレンは大きく突き飛ばされた。アビスの方も耐えることはできず、バランスを崩してその場に倒れた。
「くっ・・・ゲホ、ゲホゲホッ」
そのとき、アビスは緊張の糸が一端とぎれた。周りの空気からの苦しみに襲われた。
(チッ、デラストのバリアが作用しているにしろ、この炎は攻撃目的には変わりねえ、少しずつダメージを受けてきてるな・・・それにしても熱い・・・)

カレンは倒れたままだった。開いた両手を握ろうとしたが、それにすら力が入らない。彼女のほうも、この合間に緊張の糸が切れていた。彼女は息を荒くしながら、いろいろなことを考ええていた。
(・・・・・家族・・・じゃ・・・ない・・・・・のかな・・・・・)
彼女の口元が少し笑った。あきらめたような笑いだった。
(・・・私は・・・仲間に、大切に、されてるみたい・・・・・もし、父さん・・・じゃないかもしれない・・・・・あの男が、言ったときに、その場で深く考えて、もし、この軍団に入る道を選んでたら、私、仲間を裏切ることになってたかもしれない・・・私の事を大切に思ってくれている仲間・・・)
カレンの頭の中には、奥華が自分の事を呼んでいる光景が、ちょっとだけ浮かんだ。
(でも、もしあの人が、本当に父さんだったら、私は、家族を裏切ったことになる・・・?兄さんは?母さんは?それに、今は間違いなく敵だけど、私のことを育ててくれた悪堂さんも、裏切ったことになってる・・・)
カレンは涙を流していた。ゆっくりと迫ってくるアビスには気がつかなかった。
(なんで、みんな仲良くなれないんだろう・・・何がいけなかったんだろう・・・もし、私がもとからこの世にいなかったら、何か変わってたかな・・・でも・・・何も変わらないような気がする・・・でもやっぱり、こうしてみんなを巻き込むような戦いはしなかったかもしれない・・・そうだ、私が強いからだ。弱かったら、こんな戦いに巻き込まれることも、あるいは自分から引き起こす原因になることもなかったかもしれない・・・でも、今は弱い・・・もうこの戦いで、負けは決まってる・・・・・・・・なんで、何で私は、家族よりも、つきあいの短い仲間の方を選んだんだろう・・・父さんの方が、すごく尊敬してるし、私のことを育ててくれた・・
・でも、あの三人とは、ちょっとしか一緒にいられなかった・・・でも、楽しい。楽しかったんだ。とくに奥華ちゃんなんかは、一番一緒にいた時間が短いのに、私を友達だと思ってくれた・・・私を信用してくれたんだ。なのに、その友達を裏切る・・・そんなことできるわけ無い!・・・でも、家族だって裏切ることはできない・・・どうしたらいいんだろう・・・でも、いまここにいる男は、私の父さんじゃない可能性もある・・・そうすれば、私は家族を裏切ったことにはならない・・・けど、今ここで負けたら、みんなの期待を『裏切った」ことになるのかな・・・でも、ここでもし勝ってその相手が父さんだったら・・・)
カレンは意識があったが、もう動こうとしなかった。自分の体が、アビスに持ち上げられようとしているのが分かったが、もはや関係なかった。アビスは逆に、意識がほとんどないにも関わらず、体は勝負に決着を付ける方向に動いていた。
(・・・どうなるんだろう・・・裏切ったら・・・あの選択の時点で、私はここの軍団を裏切ったことになるのかな・・・メルさんみたいに・・・・・ああ、相手が父さんかどうか分かっていたら・・・)
その時、カレンはあることに気がついた。
(・・・メルさん・・・?そうだ・・・そうだった!)
カレンは目を開いた。
(メルさんが言ってくれた、明らかにしてくれた!今目の前にいるのは、間違いなく、父さんなんだ!)
彼女の目の色が変わった。少なくとも、アビスに向けている間の目は豹変していた。
(私一人で考えてた・・・でもさっき、メルさんがちゃんと言ってくれたんだ!ここにいるのは、父さんで間違いないんだ!でも、なぜ・・・?そうだ、なぜだか分からなくて、苦しんでいるのは父さん自身なんだ!元に戻すには、目を覚まさせて、もとの優しい父さんに戻すしかない!そうすればきっと、みんなが争うこともなくなるんだ!でも、どうやって・・・?)
カレンをつかんでいるアビスの手が震えだした。カレンは我に返った。アビスの方はまたヴェノムドリンクが切れたのだろうが、肺もかなりやられていて、腕に力を込めているのはやっとの事だった。
(いずれにせよ、私も限界が来てる・・・ならば、どうしても、倒すしかない・・・目の前にいる、この男を!)
カレンには再び戦いを続行する体力は残ってはいなかった。アビスも同様だった。しかし、カレンは最後の力を振り絞り、『禁じ手」を使うことにした。勇気はかなり必要だった。それでも彼女はその手を選んだことを変えようとはしなかった。最初に彼女の体が光り始めたとき、アビスはそのせいで正気に戻った。それは、カレンがもっとも希望している意味も少なからず含まれていた。が、すでに遅かった。
「・・・まさか・・・カレ・・・」

すべてはその光に包まれた。

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