第十四話

二中の門の前を、その行列は通っていた。見物集、野次馬は道の脇に退いていた。天希達もその一部だった。
まず歩いてきたのは、二列に隊をなした、百人ほどの軍隊と思われる男達で、その後にやってきたのは、これも二列に並んで行進していたが、見たことのある顔が並んでいた。長谷大山、陰山比影・・・・・・
「あ、あいつら・・・」
そのすぐ後ろで動いていたのは人力車だった。その豪華な飾りの中に、アビスの顔が浮かび上がっていた。天希と可朗なら知っている顔である。
さらに、人力車の両脇で偉そうに歩いているのは、アビスの手下の中でも、幹部格のようだ。片方は、人力車から見て右側にいるのは、カレンの知っている、薬師寺悪堂だった。
天希達はというと、それぞれ見ている人物が違っていた。人力車から見て左側に天希達四人はいた。天希は、一番手前にいる幹部と思われる男、人力車から見て左側を歩いていた、その青年と目が合った。天希は何となくその青年に見覚えがあったが、倒すべき敵が目の前にいると、天希はそわそわしていた。
可朗は、今まで戦ったことのある部下達の方を見ていた。恐らく、デラストを持っているもの同士で固まっているのだろう。可朗がそっちを見ていると、向こう側も冷や汗をたらしながらこっちをにらんでいたが、すぐ目をそらした。
慶は知人がいないので、他の見物集と同様、アビスの方を見ていたが、アビスの視線が、こっちに注がれている・・・いや、正確には、そのボスはカレンの方をにらんでいたのだ。彼女は目をそらした。
(まさか・・・・・やっぱり・・・・・・・)
彼女の思考は、見物集もとい野次馬のどよめきにかき消された。天希が行列の前へ飛び出したのだ。
「おいアビス、俺と勝負しろ!」
反対側にいた薬師寺悪堂も驚いた表情を見せたが、アビス本人は、カレンから天希に視線を変えると、一瞬で人力車から飛び出した。車の飾りはぴくりとも動かないのに、アビスは瞬間移動でもしたように、車の外にいたのだ。
天希はそのボスの顔を見上げにらんでいた。身長三メートルの相手の威圧感に対する反応は、表には出さなかった。
見下ろしているアビスの方は、天希を見てにやりとした。次の瞬間、ものすごい音がして、天希はぶっ飛ばされた。アビスの拳が動くのは全員に見えたので、殴ったのには違いなかった。
人々の視線は天希を追ったが、その視線が道の真ん中に戻った時、アビスは既に車の中にいた。あたりが静かになると、行列は再びゆっくりと動き出した。少しだけ、アビスは人力車から顔を出して、カレンの方を向いて、ニヤリと笑みを浮かべた。その顔が見えなくなっても、行列が遠くなっても、カレンはその方を向いていたが、気づいたときには、辺りを見回しても、可朗と慶の姿は見当たらなかった。二人はとっくに、天希を探しにいってしまっていた。

偶然にも、天希が落ちたところはいつもの公園のそばであった。ダイドの足跡のところにめり込んでいて、まるで踏みつぶされたみたいになっていた。可朗と慶が見つけたとき、天希はまだ気絶していた。慶はすぐ腕を引っ張って起こした。
「カレンちゃんがいませんね」
「ここへは来るやろ」
もちろん慶の言う通り、十数分後にカレンは公園にやってきた。しかし、ちょうど今起きた天希を含んだ三人には、彼女の顔が普段よりも一層落ち込んでいるように見えた。
「カレンちゃん、どうしたの?なんか、不安と恐怖にかき立てられているような感じだよ」
可朗は無理矢理かっこ良く言おうとした。
“・・・・・いえ、ただ・・・・・・”
「アビスと何か縁があるんか?」
うつむきながら歩み寄ってきたカレンだったが、慶の言葉を聞くと、驚いたように顔を上げた。アビスの行列を見物していた時の、カレンの変化に気づいたのは彼だけであった。
「一体何があるんだよ?」天希も一歩前へでた。
“・・・・・・・・”同時に彼女は、あまり話したくない表情を見せていたが、天希と可朗はどうしても気になっていて、彼女の落ち込んでいる姿から目をそらしたのは慶だけだった。
“実は・・・・・・あの人は・・・・・アビス・フォレストは・・・・・”もちろん喋っているのはカレン自身ではなく人形のガロなのだが、その声すら震えていた。
“もしかしたら・・・・・カレン様の・・・・お父・・・様・・・かも・・・しれない・・・・・のです・・・・・”
一同は目を丸くした。言葉がでなかった。その後のカレンは、表情は変わらなかったが、ガロはもうためらいながらは喋らなかった。
“アビス・フォレストというのは、カレン様のお父様の名前と全く同じらしいのです。私自身は、カレン様のデラストの入手以降に生み出されたものですので、ご主人様の過去については、よく知らないのですが・・・”
ガロがそれ以上喋ることがなさそうなのを見ると、可朗は「なるほどねえ」と言った。
「え、でも、何で名字違うんだよ?それで認識してたんだろ?」天希が問うと、
「そりゃあ、母親がバルレン族なんでしょ、仮に父親が魔人族じゃなかったとしても・・・・」
「だからさあ、その魔人族とかって、一体なんなんだよ!?」
「ふっ、読書家の君が、そんなことも知らないのか?」
「ワイも知らん」会話に慶が入り込んできた。
「・・・・・仕方ない、無知な人たちのために、教えてやるか!」
ここで可朗が話したことをそのまま記すと、三分の一以上が自慢話になってしまうので、直接、説明文を書いておこう。

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これは、種族階位(遺伝)の法則と言われるもので、地球の生物には、これほど大規模な遺伝の法則は見られない。

デラストの世界には、大きくわけて三種類の人種がある。高血種族、平血種族、そして低血種族である。魔人族はこの低血種族の一部である。それぞれの種族の中で、さらに大きくわけられる。例えば、アビス・フォレストとダイド・マリンヌでは、低血種族または魔人族という点から見たら同じだが、名字が違えば、別の種族である。
天希や可朗、慶など、漢名を用いるものは例外を除けば平血種族である。カレンのバルレン族は高血種族である。

では、この種族の違いを決めるものは何かというと、血の中に含まれる、ある成分である。この成分の構成が複雑であると高血種族になり、複雑でないと低血種族になる。が、高血種族同士の子供が生まれるとき、遺伝情報の異常によって、全く別の種族の子が生まれると言ったケースは、これまで一度も発見されていない。また、もっとも上の高血種族と、もっとも下の低血種族の子供が、平血種族寄りの血になるということもない。

一般的に、この種族をわける法則を使う理由は、家系にある。両親のうちどっちのほうが血が高い(成分が複雑である)かが分かれば、血の高さの距離(差)は全く関係ない。
(RPGゲームで、『素早さ』によって優先順位が決まるものと同じだと考えてください)
この差があると、生まれる子供に変化が出てくる。例えば、父親の方が血が高いと、生まれた子供は約8割が父親に似る。母親の場合も同様である。また、名字も血の高い方から引き継がれる。髪の毛の色なども(うわーまさにマンガだな)血の高い方の親と同じになる。

が、たまに例外があって、血の高さに差があっても、父親と母親の両方に似た(五分五分)子供が生まれてくることがある。こういう子供が生まれる時は、災いが生じると言われている。(超マンガじゃん)

ちなみに、真ん中の種族、平血種族は全員漢名で、平血種族は一つの種族だが、いろいろな名字があり、主に外見が似た方の名字を引き継がせる。(笑)

平血種族同士やバルレン族同士のように、同じ種族同士が結婚した場合でも、子供は生まれる。(たぶん兄妹とかでも・・・)

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「・・・というわけだが、あれ・・・・・?」
カレンだけは真剣に聞いているつもりだったが、天希と慶は既に爆睡していた。
「お~い天希、学校はじまるぞ~」可朗は冗談で起こそうとしたが、起きなかった。代わりに、慶は何かに気づいたように、はっと目をさました。
「来るで!」
一同ははっと公園の林の方を見た。砂煙とともに、何かが道に飛び出してきた。恋砂煙の中にいる人の影は、慶でさえ見たことのある顔だった。
「宗仁!!」
そこには友の姿があった。しかし、様子がおかしい。カレンと慶は殺気を感じ取った。が、強くなったり薄れたりしている。まるで彼の心が、『何か』に対して拒絶反応を起こしているように見えた。天希達がいることに気がつかず、うめき声を上げて苦しんでいた。
「一体どうしたんだよ、宗仁!?」
天希の声に気づいた様子で、宗仁は震えながら、ゆっくりとその首をこちらに回した。昔から学年の大将であったはずの男がその顔は、病んだように青ざめていた。
「あ・・・あ・・・・天希・・・・・・・お・・・・お・・・・・・・お・・奧華・・・が・・・・・・・グッ・・・グガガガッ!」
宗仁は言いながら、自分のでてきた林の方を指差したかと思うと、うなだれてしまった。天希はその方向を見た。
「天希、危ない!!」
天希がはっと顔を戻した時、宗仁はいなかった。彼にとって、予想できなかった方向から、血走った目をつり上がらせて、宗仁は飛びかかってきた。二人は地面に倒れ、組み合ったが、天希はすぐに飛び退いた。宗仁はうなりながらこちらを見ていた。その目はまるでーー本物を見たことのある者はないがーー獣のように、理性を失った目であった。
「一体何があったんだ!?」
天希がそう言ったとき、彼の意識が別の方向へ行った。それは、宗仁がさっき指した林の方向だった。天希は不思議だった。何故なのか、自分の他に、カレンもそれに気づいているようだった。それ以外はそう言った様子は示さなかった。
「何や宗仁、デラストもってたんか?」慶は別のことに気づいていた。
「天希が旅にでる少し前で、そんなに時は立ってないはずなんですけど、なんか強そう・・・」
「え、そうだったの?」
天希と可朗が反撃しようとしたところを、カレンが止めた。
“皆さんは公園の中へ!ここは私たちが食い止めます!”
「えっ、何が?」可朗には何のことだか分からなかったが、カレンは振り向いて、天希の顔を見、うなずいてサインした。
「こっちだ!」天希は、行動を開始した時は、何のことだか理解していなかったが、了承したように、二人の手を引っ張って、公園の中に入った。
“あなたのことは、三人から聞いていますよ。その目、その症状、ヴェノムドリンクですね!”

三人は公園の広場まで来た。いつもあまり人の来ない公園で、昨日なんかはダイドのせいで一人もいなかった。今日も見る限りはそうであるが、視線を感じる。三人は辺りを見回した。
「あそこや!!」慶が指を指した。
その男の立っている位置は、すごく不自然だった。木のてっぺんに立っていて、膝から下までは緑の中にあった。
「あ、あいつ!」
さっきのアビスの行列の中で、アビスの隣を歩いていた男だった。天希はその男がどうも気に入らなかった。
が、彼としては意外なことに、その男は自分に向かって微笑みかけたのだ。
「やあ、さっきの見物集にまぎれていた子たちだね」
「何なんだお前は!?」天希が一歩前に踏み出して言った。
「メルト・クロスだよ、天希。覚えてないのかい?」妙に親しげな声だった。
「そんな変な名前、聞いたことないぞ」
「忘れた?兄であるこの僕をか!?」
「兄!?」一番驚いたのは可朗だった。
「俺には兄弟なんかいないぞ!だいたい、俺の名字は『峠口』だ!」
「・・・まあね、君の場合は『おやじさん』だからね・・・」
「何の話だ!?」
「天希、お前の父、峠口大網は、よくめのめ町に来るんで、『おやじさん』の名で通ってたんや」
「ああ、そうそう、めのめ町って言えばさ」そう言うとその男は、しゃがんで、茂みの中から、何かを引っ張りだした。
「げっ!!」
「あ、あれは!」
手にぶら下がっていたのは、まぎれもなく安土奧華だった。服はボロボロになり、意識がないようで、ぐったりしていた。
「ほら」
ドサッ
奧華は地面に投げつけられた。慶がそっちへ行った。
「ひ、ひどい・・・」
「許さねえぞ!」
「ハハハ、そう怒るな。僕は君達と戦うつもりはないよ、『今』はね・・・・・」
そう言うと、メルとクロスは、まるでテレビの画面が消えるように、いなくなった。
さっきまで闘争心むき出しであった天希だったが、すぐに奧華の方へ駆けつけた。
「天希が怒ったの、久しぶりに見たな・・・・・」可朗はその場所でたたずんでいた。
「・・・・・・大丈夫や、ほとんど峰打ちやで、見た目ヤバいが、ショックで倒れとるだけや」
「よかった・・・」が、それと同時に、カレンと宗仁が戦っていたことを思い出した。

天希達が駆けつけたとき、宗仁の方が押されているように見えたが、カレンも疲れ果てていた。今までの激闘が感じられた。
「クソっ・・・さすがに・・・強いな・・・・・・」そう言いながら、宗仁は一本のビンを懐から取り出した。
「だが・・・これで・・・・・・(ゴクッ)・・・・・・・・・・これデ・・・・・・オワリナンダヨ!」
宗仁は突然元気になり、カレンの方へ向かっていった。彼女はもう足がすくんで動けなかった。が、自分と、向かってくる相手との間に、何かが割って入ってくるのが見えた。
「おやおや、カレンちゃん、お疲れのようだね、もう代わっ・・・・・ぎゃああああああ!!」
一瞬、カレンの目に、先日の情景が重なったが、今の可朗はあっけなく吹き飛ばされた。幸い、林の方角だったので、可朗のコントロールで木がクッションになってくれて、今日の天希のように遠くへ飛ばされずにすんだ。
「ククク・・・キキキ・・・」
「あれ、今まで戦ってきた奴と同じに見えるぞ・・・」しかし、天希は、何が同じなのかがよくわからなかった。カレンは後ろに退いたが、逆に天希は前へ出ようとしなかった。
「なんや何や、薬なんか使いやがって、情けないやっちゃなあ」代わりにでてきたのは、千釜慶だった。
その言葉は宗仁の耳には入らなかったが、彼の頭には、『今の状態なら、こいつも倒せる』という考えがあった。ヴェノムドリンクの副作用で、理性を失いかけている宗仁にあったのは、目の前の男に対する『復讐』だった。
「グオアアアーッ!」
宗仁はすぐに慶の方へ飛びかかった。が、その間、慶は相手の顔を見さえしていなかった。
(ついに・・・この人の実力が・・・)カレンはつばを飲んで、必死に目を注いでいた。
しかし、それは一瞬の出来事であった。宗仁の攻撃が今にも当たろうとした時、慶の指から刀のように鋭い爪が伸び、宗仁を空高く突き上げた。あまりにもあっけなかった。
「早っ・・・」
地面に叩き付けられた宗仁は、起きなかった。

その日の夕方、慶は昨日の病院に宗仁をおいて帰ってきた。
「メルト・・・クロス・・・メルトクロス・・・」
「どうしたんだよ可朗、あんな奴の名前なんか連呼して」
「いや、クロスってたしか・・・ほら、今日話した高血種族、あるでしょ、あれの一番上の種族なんだよね・・・・・」
「で?」
「いや・・・だからその・・・すごいんだけど・・・・・あ、そうだ、天希のお母さんの名前って、何だっけ?」
「え?母さん?峠口真悠美・・・一応、前の名字は『川園』だったらしいけど」
「ふーん、川園・・・・・?」
「でも、俺、母さんとあんまり会ったことないんだよな」
「ん?おお、川園の息子が来とんのかあ!?」ドスドスと階段を下りる音がした。
「父ちゃん」
「はは、慶~、いい後輩を持ったなあ!わざわざめのめ町から会いにきたんじゃろう?しかも川園の息子と来た・・・」
「父ちゃん、『おやじさん』も忘れんといてな」
「ありゃ?天希くんって、具蘭田のほうじゃなかったか?」
「・・・いや、峠口やで、具蘭田って誰やねん」
「あ・・・・・そうだったか・・・・・」
「・・・具蘭田・・・・?」可朗がまたつぶやいた。
「じゃ、そいうことで、失礼しますわ、両親にはよろしく伝えておいて下はい!」と言って、慶の父親はまた階段を上っていった。

慶は布団を敷き始めた。天希は独り言を言っていた。
「ったく、一体どうなってんだ、なんで宗仁が俺たちを襲うんだよ!?なんか悪いことでもしたか?」
「全くだ」可朗も同意した。
“・・・あの・・・”ガロがいった。
「ん?」天希は振り向いた。
“多分その人は『ヴェノムドリンク』をのまされたと思うんです・・・”
「ヴぇ?何それ?」
“どうやら、アビス軍団の中で作られている薬らしくて、飲んだ人間を団員として操る力があるそうです・・・・”
「こわっ・・・」
“さらに、見ている限りでは、デラストの能力を促進させる効果があって・・・”
「その分副作用は大きい・・・・・・か・・・」
「もう許せねえよ、とにかく、早く強くなって、アビスを倒さねえと!」
「おちつけ天希、最近気が短いぞ」そう言いながら、可朗は天希の家族のことを考えていた。
(天希の父親は大網さんで、今日いたメルトクロスという男と天希の母は同一人物・・・・・さっきの話からすれば、メルトクロスの父親の名字は『具蘭田』・・・・・しかし、どこからその『クロス』という血統は出てきたんだ?仮に、どちらかが偽名を使っていたとすれば納得がいくが、もし、『川園』氏の方が偽名を使っていたとすれば・・・・・天希は・・・・・)

夜更けのことだった。戸の閉まる音に、可朗は目を覚ました。天希は睡眠が落ち着いて、珍しく鼾をかいていなかった。
慶、いや、千釜先輩がいない。可朗は外に出た。同じグランドラスでも、都市部と比べると、この郊外部は暗くて寒かった。めのめ町よりも暗かった。先輩はどこに行くのだろう。外に出ている人間は二人だけだった。可朗は気づかれないように後をつけた。

そこは可朗にとって見たことのある場所だった。小学生の頃、千釜先輩(当時は『先輩』じゃなかった)があの事件を起こした直後、社会科見学で一度グランドラスまで来たことがある。休憩の時間に、天希や宗仁と一緒に座って話した、海の見える場所だった。
「お前も座れ、可朗」当時の天希の言葉と、目の前にいる慶との言葉が重なった。先輩は既に自分がつけていたことに気づいていたのだ。
「悪いな、こんな場所までわざわざつけさせて。海なんて見飽きてるやろ」
「そうでもないです、めのめ町にはめのめ町の海が、グランドラスにはグランドラスの海があります」
「ぷっ、さすが可朗、うまいこと言うなあ。しっかし、やっぱここの海はゴミばっかで汚いわ、やっぱめのめ町に帰りたいで、あいつがいればな・・・・」
「あいつって?」
「いや、こっちの話やで、気にせんといて・・・」
(・・・?何故先輩は元気がないんだ?)」
沈黙が続いた。海は歌をやめて、空に浮かぶ金色の光球をはっきりと映し出していた。
「・・・なあ可朗、彼女できたか・・・?」
「ふほえ!?いませんけど・・?」唐突に聞かれて、可朗はびっくりして慶の方を向いた。
「じゃあ、あれか、あの・・・カレンちゃんは、おまえじゃなくて」
「いやあ、そう言う訳じゃないですよ、カレンちゃんは一応、ついてきてるだけです」
「そうか・・・まあ、いるだけマシやね・・・・」
「どうしたんですか」」
「いや・・・その・・・そう、神隠し事件、覚えてるか?」
「話そらさないでください」
「そらしとらんで!マジメな話や、覚えてるか・・・?」
「・・・あの、天希が来る前に起きた事件ですよね」
「せや、で、誰が被害者か知ってるか?被害者の名前は・・・・」
「いや、気にしてませんでした、兄とテレビ見て怖がってただけでしたので・・・」
「幽大か、懐かしいな・・・・」
「で、誰なんですか?」
「・・峠口先生の・・娘や・・・」
「えっ、峠口先生って、子供いたんですか!?」
「せや、天希見てると、そいつ思い出しちまってな・・・ワイ、そいつのこと、好きやったから・・・」
「それで、あんまり天希と話さなかったんですね」
「まあな、そんで、ほんとに・・・・いや、可朗、夜明けたら出発してくれんか、このままだと、ワイが開き直ると、逆に出発させなくなるような気がして・・・・なんか」
「・・・・・わかりました、天希にはうまく言っときます、あいつ鈍いから、話しても分からないと思うので」
「いや、話されたらこっちが恥ずかしいわ」
「じゃあ、惜しいですけど、朝出発ということで・・・あ、そろそろ天希が起きてくる頃だと思います、海が照り始めましたよ」

グランドラスに光が射す。その光を背に、二人は家に戻っていった。慶は自分に言い聞かせていた。「せめて最後は、きちんと向き合おう、かわいい後輩のために」

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