第三十九話

「ふむ・・・」
雷霊雲仙斬は、ソファに座って一人で考え、一人で納得していた。
「何か分かったんですか、先生?」
その様子を見ていた可朗が話しかけた。
「ああ、頭をぶつけた事は大した事ではなかった様子だ」
雷霊雲はそう答えて、少し考えてから、また可朗の方を見た。
「彼は明らかに何か・・・体に改造を施してある」
雷霊雲はそう言うと頭をわずかに前に傾けた。
「私のデラストは、人を治療する能力を持っている。あくまで治癒を目的とした能力だ。それでも、こう仕事をしていれば人の体についての事は嫌でも分かってくる」
雷霊雲は自分の手のひらを見つめた。
「あの飛王天と言う男、私が今までに診てきたデラスターとは違う。デラストの力の流れが、頭に集中しているのだ。数を操る能力と言ったが、それとは恐らく無縁、能力自体とは全く無関係の何かが・・・」
「・・・施されている?」
可朗が言葉を補った。雷霊雲はすぐに可朗の顔を見た。
「私の能力ですら、デラスト本体の構造に触れることはできない。だが彼の身体の内側に、『デラストに対する改造』を施すためにつけられたと思われる、無数の穴・・・いや傷を確認することはできた。どれも丁寧でない」
可朗は息を飲んだ。
「高血種族を収容する目的も、薬を作るためだけとは限らないかもしれないぞ」

「で、」
加夏聡美とその手下、亜単巧太郎・玄鉄は、柱に縛り付けられていた。
「なんですの、この状況は・・・なんかデジャヴ」
目の前に立っていたのは、君六・エルデラの二人だった。先にエルデラが口を開いた。
「さて、お前達の組織について、詳しく教えてもらおうか」
「デジャヴですのー!」
聡美は叫んだ。
「お嬢様落ち着いて!こいつ、お嬢様の魅惑の美貌が明らかに通用してません!殺しにかかる目してます!」
「俺達の一族を、俺達の家族を、あんな目に合わせて、ただで済むと思ってるのか?」
エルデラが腕を鳴らした。
「わたくしは庶民が普段どんなくだらない生活を強いられているかを知りたくて、お祖父様のお知り合いである飛王天様の元にお邪魔してただけですのよ!わたくし達は無実ですし、飛王天様のお仕事の詳しい事は何も存じ上げませんわ!」
三人疑り深く見下ろすエルデラの後ろから、カレンが歩いてきた。
「兄さん、もういいんじゃないでしょうか。この人達もこう言っている事ですし」
「で、でもカレン・・・」
カレンの方に振り向いたエルデラの顔からは、一瞬にして殺気が消え去った。
「この人達をこれ以上縛っておくのはかわいそうですし、一方的に質問するより、一緒に答えを出して行く方が私はいいと思います」
カレンはエルデラと三人に笑いかけた。
「そ、そうだなあ。確かにカレンの言う通りだな。よし君六、ロープ切れ」
三人は柱から解放された。
「わっほー!自由だー」
ロープが切られると、巧太郎は真っ先に飛び出した。
「あっ、こら、はしゃぐな!」
「ふう・・・紛れもないシスコンで助かった」
「何か言ったか!?」
座り込んだままつぶやいた玄鉄はエルデラに凄まれた。
「じゃあ兄さん、私みんなのお昼作ってきますね」
そう言ってカレンは部屋を出た。同時に走ってきた奥華にぶつかった。
「ネロっち、おはよ!」
「あれっ?奥華ちゃん、おはようございます。気分良くなりましたか?」
「うん、寝たらすごいスッキリした!」
「それはよかったです。昨日はあんなに落ち込んでたから・・・」
奥華は一瞬固まったが、それをごまかすようにしゃべりはじめた。
「あは、そんなに心配しなくてもいいんだってば!それにもうお昼でしょ?寝すぎちゃった、一緒にごはん作ろう!」
「そうですね、一緒に頑張りましょう!」
カレンは奥華のごまかしに気がつかなかった。

「あー!まったくドタバタしおって!こっちは気を遣って部屋を分けてやった上に空まで飛んどるんじゃぞ!少しはワシの事も考えて欲しいわい」
ドッペルは空に浮かんでいた。飛王天達の使っていた飛行機を模した形に変身していたが、それより一回り大きかった。
「・・・ところで天希、さっきから何をやっとるんじゃ?」
「ん・・・」
はじめは戦闘の特訓などをしていた天希だったが、外に出てドッペルの上に登ってくると、座り込んでひたすら手を握ったり開いたりしていた。
「外は風が強いぞい、突風でも吹いたら飛ばされてしまうぞい」
「技のコツを探してるんだよ」
「反応がワンテンポずれとるぞ・・・」
「謙さんと別れる時、じいちゃんが昔使った技って言って、俺に教えてくれたんだ。じいちゃんの技は、デラストの力を『握る』技だって・・・」
「それだけかい!たったそれだけのヒントでお前のじいちゃんが使ってた技なんて分かるわけないじゃろ!それよりも、自分の戦い方で自分らしく戦えい、天希!」
「ん・・・」
その後もしばらく天希はドッペルの上に居座り続けた。
「まったく・・・ひい、それにしても飛び続けるのはいいかげん疲れるわい。せめて・・・」

奥華とカレンと可朗は台所で昼食を作っていた。
「可朗、お米足りない!あの三人もいるんだよ!」
「分かってる!でも出しにくいんだよ、僕のデラストは稲じゃなくて木を作るためにあるんだから」
奥華はたけた米を盛ろうとしたが、少し考えてからカレンにしゃもじを渡し、箸を並べにいった。忙しそうだが元気な奥華の顔を見たカレンは、安心しながら盛り付けをしていた。
奥華は右手だけで箸を並べ終えると、すぐに戻ってきてカレンの横についた。
「なんか不思議だね、こうやってネロっちと一緒にごはん作ってると、前からずっと友達だったみたいな感じがする」
「そうですね・・・とっても不思議です」
カレンと奥華は笑いながらそう言った。そして奥華が野菜を盛り付けようとした時、カレンの方から開いた。
「そういえば奥華ちゃん、昨日の夜、誰と電話してたんですか?」
奥華の手が止まった。持っていた皿が落下し、鈍い音を立てて地面に転がった。
「うそ・・・あたし、誰かと電話してた・・・?」
奥華は震えながらカレンの方を向いた。さっきまでの明るい表情を覆い隠すような不安の表情を見たカレンは、思わず自分の口を抑えた。
それとほぼ同時に、天希の叫び声が上から聞こえた。
「来るぞ!」
次の瞬間、部屋が揺れと同時に大きく傾き、外から爆発音のようなものが聞こえた。

「なんじゃ、今のは・・・」
陸地を抜けたドッペルは、海の上に降りて一休みするつもりだった。しかし、突然飛来し爆発した物体の方を見てそれどころではなくなった。天希は立ち上がって辺りを見回していた。
「バカ、早く陸に戻れ!」
天希がドッペルに言った。
「何じゃ、一体何があるというんじゃ、天希!」
天希は物体が飛んできた方角を見るように目を細めた。しかし水平線上には何の影もうつっていなかった。
「父ちゃんだ・・・!」

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