第十一話

ー千釜邸 午後四時ー

「で、今天希はどこにおるんや?」
「さあ・・・・・気がついたときにはいませんでしたから」
「情けないやっちゃなあ・・・・いまだにお前、天希の足に勝てないんか?」
「んなわけないですよ!あいつは、あいつはクラス一・・・・いや学年一足が速いんですから!」
「へ~~~~」
「感心してる場合じゃないですよ!もう日が暮れます!」
「そやな・・・・まあ、慌てんといて。この街はワイの庭みたいなもんやで」
暫く会わないうちに、千釜慶の喋り方はずいぶんなまっていた。それでも、

ーグラン・ドラス公園 午後六時ー

今日は日の落ちるのも早く、明かりのついた電燈の下に、天希とカレンはいた。ふたりは夜のベンチに座って、コンビニで買った夕飯を食べていた。カレンは地 面に目を落としていた。夜の暗闇のせいか、落ち込んでいるように見えた。
「ちっくしょー、なんで見つからないんだよ」
“・・・・・・・”
カレンはいつもよりも口が塞がっていた。
「なあカレン、なんでお前何も言わないんだ?」
“・・・・・・・”
「何か言えよ」
カレンの顔はさらに下にうつむいた。
「いや・・・何か喋ってくれよ」
顔を下げた彼女を見て、彼女を見て、天希は初めて、自分が言った言葉が少し乱暴だったと思った。
「そんなにがっかりすることないじゃないか、グランドラスは広いんだから、俺も今までに一回この街にに来たことあるけど、あんなに高いビルは建ってなかっ たぞ。都市ってすげーな」
“・・・・・・・”
やはり彼女は喋らなかった。天希は、いよいよタダ事ではないと思った。いや、そうであることは前から気づいていたのかもしれない。出会った時から、彼女は 元気がないように見えた。天希は彼女をできるだけ元気づけたいとは思ったが、なかなかその機会がなかった。学校では元気一番の天希も、カレンの前では励ま し方を忘れてしまうのだった。
“・・・・天希さん・・”
喋ったのはガロだった。天希は驚いた。何故驚いたのだろうか?さっきから一人で喋って励まそうとしてはいたが、おそらく心の中では諦めかけていtのだろ う。
「な、なんだ?」
天希はためらいがちに返事した。が、ガロが何か言おうとした時、ものすごい風がふいた。天希は危険を察知し、ベンチから立ち上がった。林の向こうに青白い 光が見える。目だ。あれは目だ。そう考えた一瞬、後ろでものが切れる音がした。振り返ると、ベンチがまっぷたつになっている。カレンは幸い端にいたのでき られずにすんだが、その軌道はUターンしてこちらへむかって来た。
「あぶねえっ!」天希が叫んだ。カレンはそれに応答するように、技を繰り出した。カレンが両手を前にかざすと、彼女の前に盾となる大きな人形が現れ、敵の 攻撃を防いだ。敵の動きが止まった。足下に舞った砂煙が見えなくなったが、相手はそれでも動かなかった。
カレンは、人形の横から相手の方をのぞいてみた。すると、相手の顔もカレンの方を向いた。
“・・・・・・・!!”
カレンは心臓が止まりそうになった。その相手の顔は人間の顔ではなかった。青白く光る目のすぐ下には、耳元まで裂けた口があり、皮膚全体には瓦のような模 様がかかっていた。彼女は叫びそうになったが、のどがつぶれていたため、彼女は音も立てずに、仰向けに倒れてしまった。
「カレン!」天希が叫んだ。と同時に、敵の方も動き出した。さっき、そいつの姿が電灯に照らされた時、相手は両手に刃物を持っていた。かなり長いものだっ た。敵は再び黒い風となって、天希を斬りつけてきた。ほとんどギリギリでかわしてはいたが、自分よりもカレンの方が気になっていた。相手に斬られたり、突 かれたりしなかったか。
「天希~~~~!」

ふと、友達の声が聞こえた。可朗が走ってきた。と、その声に、相手も止まった。
「!?」
天希は、今の声で相手が止まったのに驚いた。
「バカなヤツやなあ、相変わらず」
相手から発せられるのは、懐かしい声だった。
「そんなマジメな顔せんて、アイサツ代わりやて」
「ち・・・・千釜先輩??」
天希は火を灯し、改めて相手の顔を見た。天希もさっき電灯に照らし出された顔を見たが、さっきの顔とは違う。そこにあるのは、前に比べて少し大人っぽくな り、なおかつ懐かしさを漂わせる、天希の最も尊敬する先輩の顔だった。
「千釜先輩!懐かしぶりっす!」
「懐かしぶりな。オメーも変わらんなあ」
「先輩も強くなりましたっすね!」
「またまた~、初心者のお前にワイの上達なんざ分かるわけあらへんやろ!それと、さっきのもう一人の娘は誰や?」
「ここに来る前に旅の仲間になった、カレンちゃんですよ」
可朗も会話に加わった。
「ほ~、ずいぶんとめんこいの仲間にしおったな~、内の学校にあんなきれいな奴おらへんで・・・・・・ま、後の話はうちでせや、死ぬまでワイの家に泊めた るで」
先輩の相変わらずのインパクトのある冗談に、二人は笑った。再会した先輩と後輩は、やはり話しながら千釜慶の家へ向かった。
もちろん、カレンのことを忘れていったりはしなかった。

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