第七話

「天希がやられた!」
可朗は絶望した。まさか天希が倒されるなんて・・・・しかも一撃で、デラスト・マスターの孫をしとめた敵は、今こっちに牙を向こうとしている。
「わああああああああqwせdrfTgyふじこlp;来るなあああああっ!」
恐怖のあまり、可朗の頭は混乱した。攻撃態勢を先にとったのはカレンだったが、体制も何もない可朗の方が攻撃が速かった。カレンはすぐに防御にうつることができず、そのまま可朗の攻撃をまともに食らった。が、カレンは攻撃こそ受けたものの、足だけは最後に天希を攻撃した位置から動かなかった。そうすると、可朗にはダメージを受けてないように見えたらしい。
「うおおおおおおおお!」
天希は目を覚ました。可朗が戦っている姿が見えたが、天希の知っている可朗はそこにいなかった。
いつもは冷静でキザで運動神経ゼロで、どんなに強くなっても、殺気なんて感じそうにないいつもの可朗とは180°変わっていた。野獣のようにうなり声を挙げ、狂ったように相手に向かって突進する可朗は、デラストを手にしたあの日よりも恐ろしい姿になっていた。
カレンの方は、かなり苦戦しているようだった。彼女は自分の分身として人形を何体も呼び出したが、可朗の操る数十本の植物の蔓(ここは鉱山の中なので、おそらくは根っこであろう)の前では役に立たなかった。カレンはどんどん追いつめられていった。
突然、可朗の殺気が消え、植物の根もどこかへ消えた。カレンはすぐに体制を立て直し、目が覚めたばかりの可朗に強烈な一撃を食らわせた。
可朗が壁に叩き付けられ、そこに倒れると、カレンの方からも殺気が消えた。彼女は不思議そうに辺りを見回した。と、自分の方向へ、ものすごい勢いで向かってくる巨大な火の玉が見えた。さっきまでのカレンと違い、その火の玉の前では、どうすることもできない様子だった。頭を抱え、魔人達に今まで恐れられてきた殺人鬼とは思えないような、弱々しい防御態勢だった。
が、火の玉はカレンの目の前までくると、突然消え始め、中から人が出てきた。
峠口天希だった。彼女は天希の顔を見るなり、へなへなとそこに座り込んだ。天希は、可朗の方を指差して言った。
「そうか、お前もこいつと同じように、何かあって気がおかしくなっていたんだろう?」
カレンはゆっくりとうなずいた。
洞窟の入り口の方から歓声があがった。魔人達は喜びながら洞窟へ入ってきた。天希の周りにたくさんの魔人達が集まってきたが、一人の魔人に引きずられて連れて行かれるカレンを見ると、天希は真っ先にそっちの方へ走っていった。
「一体どこに連れて行くんだ?」
「湖だ。深い湖に行って、こいつを沈めるんだ」
「沈める!?なんでだよ?」
「お前は何をそんなに疑問に思う!?こいつは我々の仕事の邪魔をし、我々が反撃もできないのに、仲間を病院送りにしたんだぞ!処刑されて当たり前だ」
「わざわざ湖まで行って沈めるのか?」
「一般人がデラスターを殺せるのは窒息させるくらいのもんだ」
「・・・・・・・」

外では夜になった。湖は、天希の見た平原のすぐ近くにあり、そこに魔人達が集まっていた。カレンは体に石を巻かれていた。今までの暴走の疲れで反抗できないようにも見えたが、自身もあきらめているようすだった。
天希は止めに入ろうとしたが、デラストを持たない彼らに話が通る訳がない。天希もあきらめていた。
が、そのとき、地面に生えていた植物達が急激にのび、魔人達を絡めとった。カレンは石を巻かれたまま、草の上に転がった。転がりながら、湖に落ちそうになったところを天希が助けた。
「フハハハハハハ!」
突然誰かの声がした。
「魔人さん達、君らにはデラストというものを分かってもらわなければ困るねえ」
「だ、誰だ!?」
皆が声の方へ一斉に顔を向けると、洞窟の入り口の所に、葉っぱのお面をつけ、蔓で体を巻いている可朗の姿が見えた。
「正義の味方、グラース仮面見参!」
「ダサッ!」
「さあ、今のうちに逃げるのだ!」
天希はカレンを連れて、山の上を走っていった。魔人達は追いかけようとしたが、植物のつるが巻き付いてうまく動けない。
「さあ、ここからどうするつもりだい?君達の脳みそじゃ脱出方法なんてのはとても思いつかないだろうねえ」
「魔人族は頭など使わない」
魔人達が全身に力を入れると、筋肉が膨張し、樹木ほどの頑丈さがあったはずの植物の蔓から抜け出した。
「マジで!?」
「魔人族のパワーを計算に入れてなかったようだな」

目的とする方角などなかった。グランドラスのある北へ向かってるのかどうかも分からないが、とにかくあいつらから逃げるしかない、そう天希は思っていた。
カレンの方はというと、全くの無意識で走っていた。疲れているせいもあり、天希のスピードに遅れたり、時々転んだりした。それでも天希は、カレンを引っ張りながら逃げていた。
下の方から魔人達がものすごいスピードで追いかけてきた。デラストを持っている魔人は一人もいないのに、図体のでかい魔人達のその足の速さは、天希の本来の走るスピードと大差なかった。
「追いつかれる!」
魔人達は、二人を囲んで動きを止めることなどせず、目の前までくると、手を伸ばしてこちらを引っ張ろうとする。
(悪い人たちじゃないんだけど・・・・仕方ない)
天希は魔人達の方に振り向いて、炎を放った。
「許せ!」
しかし、魔人達はわめくだけで、炎はあまりきいていない様子だった。今の攻撃で立ち止まってしまった天希は、真っ先に引っ張られ、その巨大な拳に殴られようとしていた。
その時の魔人のうなり声で我に返ったカレンは、天希を見るなり、魔人達に向かって、エネルギー弾を放った。その攻撃でひるんだすきに、巨大な人形の腕を呼び出し、魔人達を押しつぶした。
その攻撃をかろうじてかわした天希はカレンに向かって、
「これでお互い様だな」
と言ったが、天希がそっちを向いた時、カレンは疲れて倒れていた。ふと山頂の小屋に目が入り、天希はそこまでカレンを連れて行った。

「オーバー・エナジーさ。デラスターは危険が迫ったりすると、デラスト・エナジーを急激に増幅させるんだよ。もっとも、その間理性は大幅に欠けるし、後の負担も重いんだけどね」
小屋の主は、薪を割りながら説明した。
天希は小屋の中へ戻って、可朗とカレンの座っているソファに腰を下ろした。
“あの時は本当にありがとうございました”
天希にむかってお礼を述べたのは、やはり腹話術人形のガロだった。
「いや、助けたのはそこの可朗の方だし、俺もどっちかというと助けてもらった方だし・・・・・」
「・・・・・・あのさ、カレンちゃん、前から気になってたんだけど、なんでわざわざ人形に喋らせるんだい?」
可朗にそう言われると、カレンは下を向いてしまった。
“いいでしょう。今からそれについてお話しします・・・・”
天希と可朗にであってから数時間、カレンは彼らに、自分からは一言も喋っていなかった。

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