年のまとめとして今年のMVPとなる絵柄二つを混在させた絵にしようとしたらただの雑コラになったけどメリークリスマス!
月: 2017年12月
シーンズ
新しく「シーンズ」カテゴリを追加しました。シーズンではない。
このカテゴリは我が緑月電園都市で放送されているだいにんき作品の中から、記録しておきたいシーンとかその場で思いついたシーンとかエピソードとかを投稿するものです。形式は絵であったり漫画であったり小説っぽかったりその時次第です。
超気まぐれです。
「面割れ病」
「待てえっ……待ちなアンタあッ……!」
中年の女性は憤怒に叫んだ。困惑と悲しみは怒りに上塗りされ、ただただ声を張り上げていた。床には動かぬ子供。そこから漏れ出す血が、黒い足跡を覆い隠す。足跡の主はもはやそこにはいない。
「許さない……許さないィッ……!」
女性は全身の血を駆け巡らせ、四つ足で大地を蹴って逃走者の背中を発見する……幻影だ。彼女を駆動させるはずの血は、切断された両足から虚しく漏れる。哀れな獣はその場で四肢をバタつかせていたが、やがてすすり泣きを始めた。体に残った力は、嗚咽と、この悲劇の記憶をフィードバックする事に使われた。
襲撃者の姿。夫に瓜二つ。だがその変装は解けかけていた。顔にヒビが入っていたのだ。あの時すぐに動いていれば、こんな事にはならなかっただろうか。少なくとも、自分が死に、息子は助かったか。しかし、そもそも何故私達がこんな目に。あの男。許さない。許さない。許さない許さない許さない許さな許さな許さな許さ許さ許さ「はいそこまで」
不意に、彼女の怒りが消えた。その次の瞬間、押し寄せる感情によって忘れ去られていた傷の痛みが押し寄せ……ない。彼女は眠った。顔に入りかけていたヒビが、みるみる閉じていく。
「加害者が増えるところだったぞ、おばさん」
横たわる中年女性の頭から、小さな黒い石を挟んだ手を離し、ハイドレートはその部屋を見渡した。新鮮な血の匂いが、視界よりも強く頭に訴えかける。
「いやしかし、これはひどいものだ」
ハイドレートは子供の脈を手首に二本指を当て、重いため息をつくと、壁の方を見やった。否、そこにあるのは壁ではなく、無造作に開けられた穴だった。血の筋はその穴に続いている。
「どうですか」
後ろから声がした。ハイドレートは振り向きもせず、
「カバー持ってこい。子供の死に顔見ながら運ぶのは最悪の気分だろ」
後ろでパリパリと音がし、子供の死体はしめやかに運び出された。さらに2〜3人が部屋に顔を出した。
「他にいるか?被害者は」
「この部屋だけです」
「ならとっとと帰るぞ」
ハイドレートは床を見やった。倒れ臥す女性の足には、先程まで転がっていた両の足先が元のようにくっついている。接合部は、彼の両手が放つ光と同じ、桃色の光を放っていた。彼は女性を担ぎ上げた。
「追わなくても良いのですか?」
部下らしき男の一人が、壁に開いた穴とハイドレートを交互に見やる。ハイドレートは追い払うように首を振った。
「俺の仕事ではない。あれは奴一人の仕事だ」
「ハアーッ、ハアーッ……」
フォグは獣のごとく四つ足で駆ける。その顔はヒビ割れの間から焦燥の色を見せていた。
「ああ、リンス……、リンスううっ!!」
フォグは叫んだ。彼はひたすら逃げていた。家族の住む家から。
「俺は……俺はケダモノだ!俺はぁ!」
駆けながら、パキパキという音を彼は聞いた。顔が割れる音。己が己でなくなっていく音。負の感情__後悔・嫌悪・害意・愉悦に、己の心が蝕まれていく音。
「やめろ……ハハ、やめろよ!」
フォグは加速した。それははじめ、己の醜い思考を振り払うためのものだったが、むしろその感情は昂りを見せ、それが更に彼の足取りに拍車をかけた。
「ハハハハハ……ハハハハー!」
道行く者たちは視界から滑るように、前に現れては後ろに消える。風に吹かれるように、現れては消え、現れは消え……現れた。フォグは急ブレーキをかけた。
「ア……」
その男、黄金の長髪をなびかせ、凛とした両眼で彼を見つめる大柄なその男は、フォグが落ち着くのを待った。
「こ……コースト、さん……」
フォグは眉根を釣り上げ、笑った。
「俺、妻子を……殺しちまったよ……」
両眼の端から流れる涙が、顔のヒビを伝う。コーストは目を離さない。
「俺、俺、ハハッ、ハハハハハ……」
フォグの顔の亀裂がさらに開いた。コーストは目を離さない。
「ハハハハハ!いい!いい!殺した!殺したんだよ!すごくいい!」
フォグは舌をベロベロと出し、目を見開いて笑った。もはやどこを見る目でもない。顔の亀裂は喉を覆い始めた。
「次!次の!次の妻子は!どこだあーッッ!」
フォグは「ハァーッ!」「アギャーッ!」フォグは地面に頭を強く打ち付け、バウンドした。飛び蹴りを食らわせたコーストは身を捻り、そこからさらに追撃を加えんとする!
「ハッ!ハァッ!」「アギャギャッ!」
コーストはそのままフォグの胴体を踏みつけ、ステップを踏むような蹴りを食らわせた!バウンドが収まるか否か、フォグはコーストを醜く伸びた腕で鷲掴みにせんとする。だがコーストは極めて冷静にその腕を掴みとった。
「フォグ。荒療治を許せ」
コーストは一瞬表情を緩めると、すぐに強張らせた。それと同時に、彼の手から青白い光が放たれる!それはフォグの腕を、肩を、背中を伝い、全身を明滅する光にて焼き焦がす!
「アギャバー!?アギャバギャーッ!」
ほんのコンマ数秒の出来事であった。フォグは目を白黒させて気絶し、コーストは深呼吸ののち足をどけた。そして、懐から白い石をいくつか取り出し、動かないフォグの胸の上に置いた。
「ア……ア……」
フォグは痙攣を繰り返したが、意識は遠くにあるままだった。コーストは座り込み、神妙な面持ちで石を見守る。石はフォグから何かを吸い上げるように、黒い渦を表面に描き始めた。パチッ、パチッと音がし、いくつかの石が真っ黒になり、そして砂に変わった。コーストは待った。やがて……いくつかの石が白黒のマーブル模様の状態で完全に制止すると、コーストは大きく息を吸い、
「ハァーッ……」
吐きながら立ち上がった。
そこに倒れていたのは、顔にヒビひとつない、優しい父親の顔をした男だった。だがその寝顔はどこか寂しげだった。コーストはしばらく目を伏せ、そして男を担ぎ上げた。彼はもう一度大きな息を吸って吐くと、やり場のない怒りを交えた小さな声で呟いた。
「……面割れ病、か……」
おわり
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